一方、キャサリン妃も5月7日に、本を出版した。英国の最初のロックダウンから1年が経ったところで、妃はナショナル・ポートレート・ギャラリー(国立肖像画美術館)と共同で、写真集『HOLD STILL(ホールド スティル):A Portrait of Our Nation in 2020』を発売した。コロナ禍で撮影された写真を一般募集したところ、全国から3万点以上の作品が寄せられた。妃などが審査して100点を選びだした。パンデミックのもと、厳しい暮らしを余儀なくされた人びとの喜怒哀楽を生々しくとらえた力作ぞろい。本の売り上げは、メンタルヘルスの慈善団体と国立肖像画美術館に寄付される。

■生の姿をもっと見せる

 5月6日のアマゾンのベストセラーチャートによると、予約数で『HOLD STILL』は5位で、『ザ・ベンチ』は24位だった。『ザ・ベンチ』は発売の1カ月ほど前だが、12.99ポンド(約2千円)から価格が下がり、すでに9.99ポンド(約1550円)に落ちた。

 ウィリアム王子とキャサリン妃は5月5日、ユーチューバーデビューをした。「遅れたけれど、やらないよりはまし」とユーモアを込めてチャンネルを開設。ただ、王子は始めに「発言には気を付けないとね」と妃に話しかけた。これはヘンリー王子夫妻を意識したものと受け取られている。ウィンフリーさんのインタビューでは、何げなく発した言葉がヘンリー王子夫妻に曲解されたり誤解されてリークされたりした例が見られた。王子の言葉に、妃が「わかっているわ」と間髪を入れず返すなど、息はぴったり。第1弾は、これまでの公務の様子などをダイジェストにして25秒でまとめた。

 キャサリン妃とメーガンさんの出版合戦に加えて、ウィリアム王子夫妻がユーチューブチャンネルをこのタイミングで開設した意味は大きい。このところヘンリー王子夫妻に押され気味だった夫妻は、自分たちの生の姿をもっと見せていこうとしている。「守り」から「攻め」への姿勢とも言える転換である。ヘンリー王子は、自由を求めて王室から離脱。ウィリアム王子夫妻にとっては、一家の幸せな様子を打ち出していくことが最も強力な反撃のはずだ。もとよりロイヤルとしての制約はあるが、積極的に王室のイメージ回復に努めたい。それは、国民との親しみを願う夫妻の気持ちに沿っているし王室の近代化にも通じる。エリザベス女王は大幅に公務を減らし、チャールズ皇太子夫妻は不人気のままだ。今後の英王室は自然にウィリアム王子夫妻の肩にかかってくる。今春、結婚10周年を迎えた2人に、覚悟はすでにできているのだろう。(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2021年5月24日号

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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