沖縄県庁前でハンガーストライキ中の具志堅隆松さん(中央)には、ひっきりなしに面会者が訪れた。なかには深く頭を下げる高齢者もいたという(写真:普久原朝日さん提供)
沖縄県庁前でハンガーストライキ中の具志堅隆松さん(中央)には、ひっきりなしに面会者が訪れた。なかには深く頭を下げる高齢者もいたという(写真:普久原朝日さん提供)

 沖縄戦の遺骨を含む土砂が米軍基地建設の埋め立てに使われようとしている。この問題に当事者として向き合う若者のネットワークが立ち上がった。「本土」側で運動を牽引するのはZ世代の若者だ。AERA 2021年5月24日号で取材した。

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 沖縄ではここ数年、若者の政治参加が注目を集めている。

 2019年にあった辺野古新基地建設にまつわる県民投票。米軍普天間基地の移設に伴い、名護市の沿岸部を埋め立てることへの賛否を問うもので、20代の若者たちが投票条例の制定に必要な署名運動を主導した。18年の県知事選でも、玉城デニー氏を支援する20代がイベントやSNS発信の中心となり、初当選の原動力となった。

 ただ、これらの運動の担い手は沖縄の若者に限定されていた。それが今、新たな潮流を迎えている。居住地を問わずシームレスにつながり、沖縄の現状に向き合うネットワークが芽吹いているのだ。

 きっかけは、辺野古新基地をめぐる「南部土砂採取」の問題だ。沖縄で混迷を深めているこの事態の経緯を振り返ろう。

 昨年4月。新基地の埋め立て予定地である大浦湾に軟弱地盤が発覚したため、防衛省沖縄防衛局は県に対し、大がかりな地盤改良工事のための設計変更承認申請書を提出した。その中に、土砂の調達先として糸満市や八重瀬町などの「南部地区」が加えられていた。

 本島南部は沖縄戦の激戦地だった場所で、今も遺骨が見つかる。そんな「遺骨まじりの土砂」を基地建設に使うのは「戦没者への冒涜(ぼうとく)だ」といち早く異議を唱えたのが、那覇市の沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さん(67)だ。

■県外に住むZ世代の若者がハンストに呼応した

 今年に入り、採掘業者が糸満市の沖縄戦跡国定公園内の鉱山開発届を県に提出する事態にまで差し迫った。具志堅さんらは3月1~6日、県庁前でハンガーストライキを敢行した。

 これに応答したのが、いまは出身地の大阪府茨木市で暮らす米エール大学3年生の西尾慧吾さん(22)だ。

 西尾さんは「若者緊急ステートメント(声明)」を発案し、3月6日にウェブで発表した。引き金になったのは、ハンストを伝える本土メディアの反応だった。「ああ無視かと」(西尾さん)。テレビは全国枠で報じず、全国紙も小さな扱いだった。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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