■早期支援に課題残る

 平山さん夫婦が息子の発達の遅れを気にしてからこの療育にたどり着くまでに、2年近い歳月を要した。夜中に家の外に飛び出してしまう息子に寄り添い、尚さんが夜明け前に散歩をしていたら、巡回中の警察官に職務質問されたこともある。息子にかかりきりで、上の2人の娘はほとんど面倒を見られない状態に。だが、満希子さんが公設の発達相談窓口に電話しても、励まされるだけで支援には一向につながらなかった。療育先は、ママ友達や尚さんの職場の上司の情報を頼りに一軒一軒訪ね歩き、4軒目で子どもに合う施設が見つかった。満希子さんは言う。

「そもそも病院の受診も何科を受診すべきかわからず、ネットで調べて『精神科に行けばいいのかな?』と手探りで……。窓口に電話して相談しても、困りごとに対しての解説は、何カ月も得られませんでした」

 日本臨床心理士会の乳幼児健診における発達障害に関する市町村調査報告書(2014年)によれば、80%程度の自治体は発達障害のスクリーニングの実施により早期発見に取り組んでいる。だが、早期支援のための発達を促すプログラムの実施率は25%程度。ADDSの共同代表で、昨年新設された江戸川区発達相談・支援センターのセンター長も兼任する仁美(くまひとみ)さんは、こう指摘する。

「早期発見、早期療育が重要と言われて久しいですが、日本では療育にすぐにつながれる環境は十分に整っていません。乳幼児健診で発達の遅れが指摘されても、支援が必要だと確実に判定ができる専門家は少なく、公的な療育の頻度も質も十分とは言えません。診断前や療育につながる前のグレーな期間の支援も手薄で、誰が支援するかも明確でないのが現状です」

 現状を打開すべく、ADDSは「ぺあすく」という親子共学型の療育プログラムを開発した。ICTを駆使し、セラピストが個別に親子の関係性そのものをエンパワーしていく仕組みだ。

■幼少期の支援で改善

 発達障害は先天的な脳の機能障害で、幼少期の集中的な支援が症状の改善につながると複数の研究により報告されている。代表例が先述のABAだ。ABAには、「褒めて伸ばす(強化)」「手助けして成功体験をさせる(行動を促す刺激)」「習得した行動をどんな状況でも行えるようにする(般化)」という三つの柱がある。行動のステップを細かく区切り、「スモールステップ」で達成度を見極めながら支援方法を進化させるのも特徴だ。

 また、本人にとって「嫌」や「苦手」な状況を減らしていくための環境調整も行っていく。

「ぺあすく」は、2016年から3年間のRISTEX(国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター)の研究プロジェクトに採択された。公民にまたがり全国15拠点と連携し、共通フォーマットを使ってカリキュラムを共有、支援と効果の評価を行った。すると、実際に支援を受けた子の群は、受けていない子の群に比べて言語や社会性のスコアが10ポイント程度上回ることがわかった。

「ぺあすくのような日本型のABA療育プログラムでも、徐々に実践や成果が蓄積しつつあります。これからは、どの地域に生まれても個別の良質な療育を受けられる社会にしていきたいと思っています」(熊さん)

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2021年5月24日号より抜粋