立川相互病院では救急車の応需率が80%(昨年1~3月)から今年1~3月は55%に下がるなど、コロナ以外の診療にも深刻な影響が出ている (c)朝日新聞社
立川相互病院では救急車の応需率が80%(昨年1~3月)から今年1~3月は55%に下がるなど、コロナ以外の診療にも深刻な影響が出ている (c)朝日新聞社
高橋雅哉(たかはし・まさや)/1963年、大分県生まれ。東京大学医学部卒。立川相互病院外科科長を経て、2018年から現職(写真:病院提供)
高橋雅哉(たかはし・まさや)/1963年、大分県生まれ。東京大学医学部卒。立川相互病院外科科長を経て、2018年から現職(写真:病院提供)

 東京都内の病院が五輪開催反対のメッセージを窓に貼り出した。新型コロナウイルスの 感染拡大で医療体制が逼迫する中、患者と向き合う現場の思いが込められている。AERA 2021年5月24日号に掲載された記事を紹介。

【図】ワクチンを1回接種した人の割合 日本は?

*  *  *

「医療は限界 五輪やめて!」
「もうカンベン オリンピックむり!」

 東京都立川市の立川相互病院が4月30日から、そんなメッセージを窓に貼り出している。計287床で90人の医師が働く病院だ。高橋雅哉院長(58)が思いを語った。

■怒りは以前から抱く

 貼り紙を掲げたきっかけは、東京五輪・パラリンピック組織委員会による医師・看護師の派遣要請や、選手の受け入れ病院確保の方針を報道で知ったことです。ただ、「この感染状況で本当に五輪をやるのか」という怒りは以前から抱いていました。

 昨年4月からコロナの入院患者を受け入れています。現在、五つの一般病棟の一つをコロナ専用病棟とし、疑い症例のベッド11床、陽性患者用10床を設けています。軽症の方も多かった第2波までと異なり、今は中等症以上の方がほとんど。急に呼吸状態が悪化し、HCU(高度治療室)に移さざるをえないケースも起きています。

 5月7日からはHCU全てを中等症~重症者用に転用し、10床を設けています。東京都からの強い要請に応じたものです。

 第3波のときにも都から重症者用のベッド確保を求められ、今年2月にICU(集中治療室)丸ごと6床を転用しました。感染が落ち着いて3月1日から通常診療に戻したところ、都から「重症者用に戻して」と再三再四、電話がありました。こちらの切迫した事情も納得してもらえず、感情的な押し問答になるような状況でした。

 協力はしてきました。しかし、都は肝心の「感染を抑える」点では効果的な手を打てず、PCR検査で無症状者を広く把握する努力も十分ではありません。尻拭いを私たちがする状況が続いているんです。

■疲弊する看護師たち

 また、HCUの患者さんを一般病棟に移すことが、現場の重い負担増になります。HCUには大きな手術を終えた患者さんなど、頻繁に管理すべき方がいる。一方で、一般病棟には認知症を抱えた患者さんも多くいる。看護師さんがご飯を食べさせる横で、HCUから来た重症の患者さんのアラームが鳴り続ける。特に夜勤は一般病棟の47床に看護師3人と過酷です。2月にICUを転用したとき、信頼していた看護師さんが疲弊して辞めてしまいました。

著者プロフィールを見る
小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

小長光哲郎の記事一覧はこちら
次のページ