元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
豆ご飯のついでに発芽させたグリンピースが、陽気に誘われ我が家のベランダですくすく成長中(写真:本人提供)
豆ご飯のついでに発芽させたグリンピースが、陽気に誘われ我が家のベランダですくすく成長中(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さん宅のベランダですくすく育つグリンピース

 なかなかいい買い手が現れなかった稲垣さんの家に、ついに良縁が舞い込みました。売り出し価格から100万円ほどの値引きを希望された稲垣さんの対応は。

*  *  *

 購入価格の5分の1というモッテケ泥棒価格のはずが、まさかの半年間棚ざらしという憂き目に遭っていた我が家にやっと良き買い手が現れたことに喜んだ私は、先方の求めに応じ、約100万円の値引きに二つ返事で応じた。結局、これで購入価格の6分の1! なかなかの事態だ。それを一切の迷いなくアッサリ受け入れた私。我ながら気前の良い大人物や~……と言いたいところだが、実は私なりの周到な計算があったのだ。

 この計算、本当に正しいかどうかはわからない。でも少なくとも私が自らの人生をかけ考え抜いた結論である。なので、今後万一同様の憂き目に遭うやもしれぬ皆様にも知っていただく価値があるのではと思い、書く。

 私のようなトシになれば、家を売ることのリスクは、何より「老後の住まいを失う」ということだ。仕事があり家賃を払えるうちは良いが、近い将来体にガタがきて思うように働けない時がくるだろう。その時、どうするか。加えて高齢者は家を借りにくいのも現実だ。家主が「孤独死リスク」を恐れるのである。ってことは、最悪ホームレスになるやもしれぬ。それを避けるには、いざという時のために金を貯めるしかない。でもいくら貯めればいいのかというと、これが恐ろしく視界不良だ。何しろ人生100年時代。長生きすればそれだけ家賃がかかるわけで、要するにいくらあっても足りず、となれば少なくとも家を売るなら一円でも高くなきゃヤバイわけで、それは文字通り死活問題……って、普通は思いますよね。

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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