成田:僕は現場であの時間を生きることができて幸せだったな、と思います。ある程度長い時間を役として生きて、僕自身が「吉尾になれた」という感覚を得ることができたし、みんなが吉尾をつくってくれた。吉尾はどこか定まっていないところがあるけれど、僕自身も「僕ってなんだろう」と考えながら生きているところがある。取材などで「役づくりの方法は?」と聞かれると「なんて言ったらいいのかわからないな」と、言葉にできないときもあるんです。

松居:でも、それがいいのだと思うよ。演劇とかだと、計算しないと作品が成立しないこともあるから。

成田:感情のバランスや「このシーンでは何が一番大事なのか」ということは考えますけれどね。でも、撮影現場での僕の仕事は「つくり込まないこと」なのかな、なんて思ったりもします。

■わからないから面白い

——―二人は映画界のなかで着々とキャリアを築きあげてきた。互いの存在を意識し始めたのはいつ頃だったのか。そう尋ねると、“意外な出会い”を明かしてくれた。

成田:(松居が手掛けていた)クリープハイプのPVを観て存在を知ったんです。ボーカルの尾崎世界観さんに「クリープハイプのPVに出たい」と伝えてもらったのですが、松居さんからの返事は「成田凌? 知らない」だったんですよ(笑)。

松居:悪印象だね(笑)。僕は(成田が出演した「愛がなんだ」の監督である)今泉力哉のことをよく知っていることもあって、そこから成田君という存在を知って。「なんだ、この俳優は」と思うようになった。作品を観ても、何を考えているのかつかみづらい時があって、それが僕としてはワクワクするんです。スクリーンから目が離せない。「どういうお芝居のつくり方をしているのだろう」と思っていたのだけれど、今回一緒に作品をつくっても結局わからなかった。でも、わからないから、すごく面白い。

成田:もし、またご一緒させていただける機会があったら、シンプルな恋愛映画も面白そうですよね。

松居:あ、僕もちょっと思った。

成田:それから、松居さんのお得意な“変態男”の役とか!

松居:あはは。今日は久しぶりに会えたから、これからたくさん話をしたいと思います。

(ライター・古谷ゆう子)

※AERA 2021年5月3日-5月10日合併号