松居:とくに最初の方は俳優たちの芝居のなかに、さりげなく長回しで登場人物たちに没入できるように撮っていたから、わりと決め込んで撮っていたけれど、段取りを感じさせず、楽しそうに演じてくれていたから救われました。

成田:男の子たちが楽しそうにしているシーンは実際に楽しく演じていました。でも吉尾にも色々な感情があるし、これは誰かの“記憶”の物語でもある。現場では楽しければ楽しいほど不安になることもありました。「楽しい」って自分たちが見えなくなるので、危険なんです。でも、松居さんは近くにいながらも、僕たちのことを一歩離れたところから見てくれていた。信用していましたし、「大丈夫だ」と思いながら演じていましたね。監督は7人目の仲間として現場にいてくれた。

■感情が一つにならない

―——コメディーやファンタジーの要素を盛り込みながらも、いまでは会うことのできない友人への優しい眼差しが作品を貫く。物語には、「暮れなずむ」を命令形にしたタイトルの「くれなずめ」同様、印象的な言葉がちりばめられている。

成田:「ヘラヘラしていろよ」というセリフがありますが、その言葉は作品を物語っている気がします。落ち込んでいる人に向かって「頑張ろうぜ!」とは言わない、というか。無理せず、そっと近くにいてあげるような感覚ですね。それから、劇中で使用されているウルフルズさんの「それが答えだ!」という言葉。改めていいなと思いました。「それが答えだ」と言っておいて、何が答えなのかは言わない(笑)。一つの言葉に収まってはいけない存在って、たくさんあると思うし、ふわっとしていたっていいじゃないか、という感じが好きだな、と。

松居:僕はこれまでも10代の若者たちを描いてきたけれど、感情が混じり合っている感じはあの年代特有のものだと思います。大人になればなるほど、例えば怒るときは怒りだけの状態になったりするけれど、感情が一つにならないのがいいな、と。

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