「shojin宗胡」オーナーシェフ 野村大輔/和食に限らず自分以外の誰かが作る料理を食べるのが一番の勉強。刺激をうけるし、自分の引き出しになる(撮影/門間新弥)
「shojin宗胡」オーナーシェフ 野村大輔/和食に限らず自分以外の誰かが作る料理を食べるのが一番の勉強。刺激をうけるし、自分の引き出しになる(撮影/門間新弥)
「宗胡」の個室で、百貨店で販売するお中元用カレーの試食会。付け合わせの野菜の彩り、外装など詳細を詰める。「野菜カレーでこんなに美味しいのは食べたことがない」と販売会社の担当者(撮影/門間新弥)
「宗胡」の個室で、百貨店で販売するお中元用カレーの試食会。付け合わせの野菜の彩り、外装など詳細を詰める。「野菜カレーでこんなに美味しいのは食べたことがない」と販売会社の担当者(撮影/門間新弥)

「shojin宗胡」オーナーシェフ、野村大輔。肉も魚も乳製品も使わず、植物性食品だけで作られた精進料理。味気ないという印象を覆す精進料理を作るのが野村大輔である。幼い頃から祖母や親に連れられて、名店で外食をするのが日常。中学時代は友人と「美食倶楽部」を作り、食べ歩いた。確かな舌を持つ野村が作る精進料理は、見た目も美しい。使える食材が限られる中、日々、新しい料理を生み出していく。

【写真】「宗胡」の個室で、百貨店で販売するお中元用カレーの試食会

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 東京・六本木「shojin宗胡(そうご)」の42席は、ほぼすべて埋まっていた。2019年の大晦日、夜8時。8割方は欧米、アジアなどからの外国人客だ。カウンター席では、見知らぬ人同士が会話を始めたりしていて、店内は心地よい喧噪に包まれていた。

 一方、厨房(ちゅうぼう)はフル回転だった。オーナーシェフの野村大輔(のむらだいすけ)(47)は、この日、「海老芋(えびいも)のパン粉揚げ」に始まり、くわい団子を使った「聖護院蕪(しょうごいんかぶ)みぞれ椀」、パプリカの「蒸し寿司」、押し豆腐と加賀れんこんなどでつくる「松葉蒸」、デザートの「林檎のシャーベット」まで全11皿のコースによる精進料理を準備していた。にぎわう客席と厨房の間をせわしく行き来しながら、野村はひたすら料理の支度と客やスタッフの対応に追われていた。

 肉も魚も乳製品も使わず植物性食品だけで構成する精進料理には、往々にして「味が薄い、美味しくない、楽しくない」という印象がついてまわる。その常識を覆さんとするのが野村の精進料理だった。味わい深く、見た目が美しく、驚きのある皿。その新しいスタイルは評判を呼び、2015年2月の開店以来、内外の客は増え続けていた。

 が、この盛況の大晦日からわずか3カ月後、海外からの客は言うに及ばす、国内の客足もぴたっと止まることになる。

 コロナ禍にみまわれる前まで、野村は、自身の精進料理に強い手応えを感じていた。ここ数年は、海外からの講演依頼や国内の食品会社の講習会などに招かれることも多くなっていた。

「日本よりむしろ海外の方のほうが精進に関心を持っていて、実際、お客さんも、海外のヴィーガン、ベジタリアンの方が着実に増えていた。コロナ前のディナーは通常の日でも3割ぐらいが外国からのお客さんでした。日本にはこんな素晴らしい料理がある、と海外に発信していくことも当初からの目的だったので、そこは狙い通りでした」

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