「たとえ外国に住んでいても、電話の盗聴や尾行など中国政府に監視されているはずです。決して油断はできません」

 市民の政治的・市民的自由を厳しく制限する国安法が20年6月に施行されて、まもなく1年。言論や報道機関に対する締め付けは、厳しさを増している。中国の習近平・国家主席や林鄭月娥(キャリー・ラム)・香港行政長官が何と言おうと、香港にかつて存在した「一国二制度」は、もはや完全に消滅した。

 この間、特に中国指導部がターゲットにしてきたのが、習氏や林鄭氏らに対して厳しい批判を続けてきた黎氏だった。

■メディアの萎縮効果大

 黎氏以外にも黄氏や周氏ら多数の活動家が、様々な「罪」で実刑判決を食らっている。だが、中国政府に抗する言論・報道活動のシンボル的存在であった黎氏への実刑判決は、他の香港メディアを威嚇するのに効果的だ。おそらく、各紙・各局の記者や経営者の自粛、萎縮を促すことになるだろう。

 黎氏への取材経験もある香港人ジャーナリストがこう話す。

「追起訴で刑期が延びる可能性もあり、72歳の彼が耐えられるか心配だ。もう一つ気掛かりなのは『リンゴ日報』が存続できなくなるかもしれないこと。中国はここをたたき潰したくて仕方ない。記事の内容が国家転覆を図っているとか、嘘の報道をしているとか難癖をつけて、廃刊に追い込むかもしれない」

■脅しを恐れてはならぬ

 香港民主化の動きを絶やさないためには、日本を含む国際社会の支援が不可欠だ。黎氏という稀有な言論人が実刑判決に追いやられたいま、とりわけ報道に携わる者や組織が黙っていてはならない。日本政府や野党のトップが、中国政府に対して言うべきことを言わないのなら、なおさらだ。

 黎氏はこれまで、自身のツイッターに何度となくこういう書き込みをしていた。

「中国共産党はずっと脅すことによって人々を支配してきた。だから、彼らの脅しを恐れてはいけない。私は決して彼らの脅しには屈しない」

(ジャーナリスト・今井一)

AERA 2021年5月3日-5月10日合併号より抜粋