羽生結弦はSPで2位。「やれることはやった」。演技後、日本チームの応援席に向かってVサインを作った(代表撮影)
羽生結弦はSPで2位。「やれることはやった」。演技後、日本チームの応援席に向かってVサインを作った(代表撮影)
羽生はフリーで2位。「久しぶりに自分のジャンプを跳べた。(隔離の)2週間は普通の生活じゃなかった。よくやったと言いたい」(代表撮影)
羽生はフリーで2位。「久しぶりに自分のジャンプを跳べた。(隔離の)2週間は普通の生活じゃなかった。よくやったと言いたい」(代表撮影)

 今季最終戦となるフィギュアスケート世界国別対抗戦が4月に大阪で開催された。各選手とも、北京五輪シーズンの来季につながる滑りを重視したようだ。羽生結弦はそこで4回転半に挑戦する姿を国内初披露した。AERA 2021年5月3日-5月10日合併号では、限界に挑み続ける羽生結弦選手の現在の心境を取材した。

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 ストックホルムでの世界選手権を終えて半月あまりが経った4月15~18日。新型コロナウイルスの感染が拡大する大阪で、世界国別対抗戦は開催された。選手や関係者はバブルと呼ばれる、感染予防対策を徹底したエリアで過ごすことを強いられた。

■誰かの希望になる演技

 それでも、日本勢の男子は羽生結弦(26)=ANA=と宇野昌磨(23)=トヨタ自動車=、女子は坂本花織(21)=シスメックス=と紀平梨花(18)=トヨタ自動車=が出場した。海外からも世界選手権男子3連覇のネーサン・チェン(21)=米国=、世界女王のアンナ・シェルバコワ(17)=ロシア=ら実力者が参加し、豪華なメンバーが集結した。

 日本は羽生がショートプログラム(SP)とフリーでともにチェンに次ぐ2位。坂本もフリーで自己ベストを出して2位と健闘した。宇野は着氷こそならなかったものの、トリプルアクセル(3回転半)-4回転トーループの連続ジャンプに挑戦。紀平は腰痛を抱えながら演じきり、ペアとアイスダンスを含めた総合成績は3位だった。女子シングルとペア、アイスダンスで1位となったロシアが初優勝を飾った。

 この大会で一挙手一投足に注目が集まったのは羽生だった。

 ぜんそくの持病を抱えているため、「まん延防止等重点措置」を適用する大阪での大会に出場するかどうかは不安視されていたが、エントリーした。その理由を前日会見で語った。

「複雑な思いでここにいます。(今季は)試合を辞退したり、出場したり、色々経験しました。それを踏まえて、誰かの何かしらの希望だったり、心の中に残ったりする演技をすべきだと思いました」

 迎えたSPはロック「レット・ミー・エンターテイン・ユー」。「楽しませてあげる」という意味の曲名通り、魂を揺さぶる激しい舞いを披露した。

 4回転サルコー、4回転-3回転の連続トーループはともに4点以上の出来栄え点(GOE)を引き出すと、トリプルアクセルも着氷でこらえた。世界選手権を上回る107・12点だ。

「やれることはやった。サルコーとトーループをこの曲で初めてきれいに跳べた。成長していると思います」

 続くフリー「天と地と」には、違う感情が上乗せされていた。

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