「絶食の健康効果に関する論文が複数発表されていますが、欧米人を対象にした研究結果が、日本人をはじめとする東アジア人にも当てはまるとは限りません。欧米人と東アジア人ではインスリン抵抗性(インスリンの効き具合)が異なるからです」

 絶食によって痩せた、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病が改善した、心血管疾患のリスクが減少した……という研究結果が欧米で出ていても、日本人が同じようにやったからといって同様の結果を得られるかは分からない。長期的な効果に関しても不明な部分がある。また、欧米の研究結果にしても、これまでの研究が太り過ぎの若者や中年を対象にしており、もっと幅広い層の人にも安全で有効かは今後の確認が必要と指摘されている論文もある。

■消化機能への弊害も

 坂本さんは、「ものすごく太った人が、医師や看護師、栄養士の管理の下、ファスティングで体質をリセットするのは、多少ありの部分もあるかもしれません」と言う。しかしそれにしたって、食事以外に原因がある肥満もある。だとすれば、ファスティングだけでは問題解決にならない。

「ファスティングを行うなら、肥満の原因を追究し、その人の基礎疾患、性格、生活スタイルなどすべて加味した上で、医師らと手を組んで行うべき。さらにはファスティング後の生活指導も欠かせません」(坂本さん)

 消化器外科専門医の立場からファスティングの注意点について語るのは、蓮田病院(埼玉県)理事長の前島顕太郎さん。

「消化器外科の医療は、絶食期間をなるべく短くすることで進化してきました。絶食が長いと、消化器機能においてさまざまな弊害が出てくるのです」

 かつて胃がんや大腸がんの手術では、計1週間ほど絶食した。しかし今では絶食は手術当日だけか長くても2~3日。栄養分を吸収する小腸の絨毛(じゅうもう)の機能を衰えさせないためだ。前島さんは、食事の取り方いかんでいかに小腸の機能が落ちるかを、身をもって経験。コロナ太り解消のため20年春から独自のダイエットを開始し、昼はそば、夜はフルーツゼリーを半年間続け、その後は昼のそばだけにした。最初は緩やかに体重が落ちていたが、次第に体重減少スピードが加速。食事を元に戻してもしばらくは下痢が続き、体重が戻らず、一時はがんも疑った。

「栄養成分が豊富なドリンクなどに置き換えるならいいですが、完全に抜く方法を長期間やるのはやめた方がいい」(前島さん)

 正しいファスティングで、夏を前に心も体もスッキリしよう。(ライター・羽根田真智)

AERA 2021年4月26日号より抜粋