AIを超える語学力のある社員には特別に外国語使用を許可するが、グループで約300人いる社員のうち、認められているのは7人。英語使用を許可された日本人社員はいないという。

 確かに、ここ数年機械翻訳の技術は飛躍的に向上している。16年にGoogleが導入した「ニューラル機械翻訳」と呼ばれる技術がターニングポイントで、独・DeepL社が提供するサービスは、専門家からも「実際の翻訳で草稿に使ってもいいレベル」(本誌20年7月27日号)との評価を得た。立教大学の山田優教授(翻訳テクノロジー論)は、翻訳技術の現在地についてこう話す。

「エンジンによって違いはありますが、正しい日本語が入力されさえすれば多くの場合で翻訳のレベルはかなり高く、単に外国語ができるだけで仕事になる時代ではなくなっています」

 とはいえ、機械翻訳では人間では考えにくいミスが起こることもあるし、今回のシステムでは「音声を文字として認識し、それを翻訳する」という二段構えの技術が必要だ。仕事、それもリアルタイムのやり取りで本当に使えるのか。そんな疑問もあり、オーストラリア人(英語)、中国人(北京語)と実際にシステムで会話してみた。

■通訳挟むよりスムーズ

 相手が話し終わってから、訳文が表示されるまでに約2~3秒。長文でも変わらなかった。訳を読むのにさらに数秒かかるので、都度6~7秒の「間」が生じる。特に英語の場合は多少耳で理解できることもあって、空白の時間がやや気になる。それでも、通訳を挟むよりずっと会話がスムーズだ。

 翻訳の精度も高い。日本語訳は記者の画面に、英語訳は相手の画面に表示されたもの。「これまで、その……」と考えながら話した部分も正しく訳されている。一方誤訳には、「『サマンサさん』が『山田さん』に」、「会社名である『Travel DX』が『旅行会社のTX』に」、「『I actually majored ......ah..., did a masters~~』と言い直した部分を『I actually majored my dinner masters~~』と誤認識し、『夕食時の修士課程で専攻』と訳した」例などがあった。これはAIが学習していない固有名詞だったり、母語側の文章や発音が不完全だったりすることが主な原因だ。北京語の日本語訳もほぼ同様の流暢(りゅうちょう)さだった。

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