男性の代理人を務める海渡雄一弁護士は、男性は記録以上の被曝をしていたうえに、危険な内部被曝をする作業環境にあったと言う。

「全面マスクをしていても、隙間から放射性物質が入り込むような杜撰な管理の現場だった。ストロンチウムを吸い込めば、骨に沈着したうえで骨髄を傷つけて白血病になり得る。すでに労災認定もされているのに争う電力会社の姿勢は許せない」

 一方、東電は裁判に関して「訴訟に関することはコメントを差し控えたい」とし、作業員への補償に関しては「労災補償制度で補償されるので、当社としては補償をしていない」と回答した。

 白血病は、被曝が影響しやすい血液のがんだ。大阪府済生会中津病院の血液内科部長を経て「血液内科太田クリニック・心斎橋」の院長を務める太田健介医師が話す。

「がんには放射線の影響で発症しやすいものとそうでないものがありますが、白血病は影響を受けやすい。細胞が暴露されるとDNAが傷つき、遺伝子変異を起こすことで発症すると考えられています。多くの遺伝子変異が積み重なって固形がんになるのに対し、白血病は割と少ない変異でも起こり得る。慢性骨髄性白血病のように、たった1個の遺伝子変異でがんが発症するものもあります」

 とくに、内部被曝が大きな影響を及ぼす。

「放射性物質が体の組織内に組み込まれてしまうので、微量な放射線量でも被曝時間が長ければ長いほど、照射された細胞に大きなダメージを与える。あくまでも確率論ですが、影響を受けた細胞の遺伝子に傷が入れば、そこががん化することも考えられます」

 その一方、がんの原因が薬物や発がん性物質などいろいろあるなかで、被曝が原因でそのがんが発症したことを証明するのは困難を極める。原因を作業中の被曝に特定しようとすればなおさらだ。厚労省は白血病の労災認定を行っているが、「労働者への補償の観点から、基準に合致すれば業務以外の要因が明らかでない限り認定する」方針とし、科学的因果関係が証明されたものではないとしている。

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