昨年の台湾の輸出先は中国(香港を含む)が44%を占め、台湾の対外投資の約60%は中国にあるとされる。そのため台湾の経営者、技師ら約100万人が中国で勤務しているようだ。台湾と中国の経済は資材や部品の供給などで持ちつ持たれつの関係にある。公式に独立して中国との紛争になれば、台湾経済に致命的だから、台湾人の87%が実態は独立、国際法的には独立国家でないあいまいな現状維持を望むのは現実的だ。

■軍事行動の必然性なし

 中国も台湾が公然と独立宣言をして面目を失わせない限り、軍事行動に出る必然性はない。中国は約1700人の地上部隊を運べる4万トン級の揚陸艦を建造し、近々2隻になる。他にも比較的新しい揚陸艦14隻を持つが、それらが運べる兵員は計1万3千人程度だ。第2波、第3波として商船、漁船を動員しても台湾陸軍8万8千人と海兵隊1万人を圧倒するだけの兵力を投入するのは容易ではない。

 中国軍が台湾に攻め込んでも、工業を破壊し、大混乱を起こしては何の益もないどころか、長期にわたって2400万人の台湾人の統治に苦労することになる。中国と台湾が軍事力で対抗しあっているような印象を持つ人は日本で多いが、台湾陸軍の兵力は1980年の32万人から何度も削減され、8万8千人に減った。2018年には徴兵制も廃止された。中国陸軍は80年に390万人だったが、ソ連の脅威が消えたため、現在は96万5千人に縮小した。

 中台双方が、陸軍兵力を約4分の1に減らしたことは、特に台湾が中国軍の台湾上陸作戦の可能性が薄らいでいると見ていることを示す。中国の揚陸艦の建造も、その程度では台湾平定は困難だから、威勢を示して独立宣言を防止する狙い、と考えるほうが合理的だろう。

 現状維持は中台双方にとり経済上も安全保障上も有利であるのは明白だから、中国の台頭を阻止したい米国が、国家として承認していない台湾の「国連加盟」を語って煽(あお)っても戦争になる公算は小さいだろう。日本にとっても戦争は迷惑千万だから、現状維持を支援するのが得策と思われる。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2021年4月26日号