AERA 2021年4月19日号より
AERA 2021年4月19日号より

 シンガポールや米国では、学生寮の下水を調査することでウイルスのRNAがあるか調査している。無症状者も検知できるため、感染拡大の防止策として注目されている。遅れをとる日本でも下水調査が動き出しつつある。AERA 2021年4月19日号から。

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 日本国内ではまだあまり下水調査が行われていないが、海外では国や自治体が積極的に下水調査を実施している。オランダは国民を100%網羅する、国内の全下水処理場で検査を行っている。毎週、自治体ごとに、人口10万人あたりどれぐらいのウイルスRNAが検出されたかを発表している。

 海外で下水調査が積極的に行われている理由について、北海道大学大学院工学研究院の北島正章准教授はこう説明する。

「下水に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度や採取した下水がどれぐらいの面積と人口をカバーしているのかなどを考慮すれば、地域でどれぐらいの割合の人が感染しているか推計することができるので、無症状の人が3割以上いる新型コロナウイルスの実際の流行状況を把握するのに役立つ」

 また、変異ウイルスの検知にも活用できそうだ。国立感染症研究所が国内で最初に変異ウイルスへの感染者を確認したと発表したのは昨年12月25日だった。しかし、北島さんたちは、国内のある都市で昨年12月4日に採取した下水から、感染性が高まる可能性のある変異ウイルスのRNAを検出した。調べた検体の6%から検出されたという。1月に同じ都市で調べた際は、その割合は12%に増えていた。

「下水調査はほぼリアルタイムで感染状況がわかる。感染者の早期発見だけでなく、変異ウイルスも含めた、より実態に近い流行状況の把握にも役立つので、もっと国内でも活用すべきだ」

 北島さんはこう強調する。

■遅れる日本の下水調査

 国内では、欧米に比べて感染者が少ないため、下水内のウイルスRNAの濃度が低い。このため、北島さんは塩野義製薬などとの共同研究で、従来よりも100倍ほど高感度でRNAを検出できる仕組みを開発。塩野義製薬などは4月以降、自治体に加え、高齢者施設や病院などを対象に、検査を請け負っていく計画だという。

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