AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
工場のある町で育ち、ひとかたならぬ「工場愛」を持つ著者による、工場見学エッセー。訪問するのは金属加工(大阪)、お菓子(神戸)、ボート(滋賀)、乳母車(東京)、ガラス加工(京都)、鉛筆(東京)──地道にものづくりに取り組んでいる、六つの工場だ。ものづくりの現場で触れる人々の気持ち、製品の歴史を、作家ならではのまなざしと表現力で綴っていく。著者である小川洋子さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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工場が身近な町で育ち、工場にひとかたならぬ思いを抱いていたという、小川洋子さん(59)。
「工場はありふれた日常の中に潜む、圧倒的な世界の秘密でした」と書く小川さんが、本書で訪れるのはエストロラボ(大阪)、グリコピア神戸(神戸)、桑野造船(滋賀)、五十畑工業(東京)、山口硝子製作所(京都)、北星鉛筆(東京)という六つの工場だ。
「お世話になったのは、派手さはなくても地道にものづくりに取り組んでいる工場ばかりでした。どんなに時代が変化しようとも、人間にとって変わらず必要なものを作り続けている方々です」
たとえば町で見かける、小さな子どもたちが立ったまま乗ることができる車輪付きの箱。サンポカーの名前を持つ、おなじみの乗り物を作っているのは、東京スカイツリーのすぐ近く、墨田区向島にある五十畑(いそはた)工業だ。
もともとはベビーカーを作っていたが、双子の子育てに苦労している人を見かねて、双子用の製品を作った。
「目の前の困っている人を助けたい、という発想から、たくさんの子どもを乗せるサンポカーへとつながっていったのだそうです。『社会の役に立ちたい』という気持ちがものを作る原点であることに、とても感動しました」
登場する唯一の女性社長が起業したエストロラボは、金属に細い穴をあけることに特化した工場だ。「穴は基本中の基本」と語り、女性社員を中心に柔軟な働き方を採り入れるなど、問題解決の人でもあった。