谷島さん(左奥)が大阪市内にひらいた社会実験カフェバー「カラクリLab.(ラボ)」。がんをカジュアルに語れる場所として人気だが、現在はコロナ禍で休業中(写真:谷島雄一郎さん提供)
谷島さん(左奥)が大阪市内にひらいた社会実験カフェバー「カラクリLab.(ラボ)」。がんをカジュアルに語れる場所として人気だが、現在はコロナ禍で休業中(写真:谷島雄一郎さん提供)
AERA 2021年4月12日号より
AERA 2021年4月12日号より
「スキルス胃がんの患者会を作りたい」という故・轟哲也さん(左)の気持ちに寄り添い、妻の浩美さんは尽力。哲也さんの遺志を継ぎ、がんについて正しく知る大切さを伝えている(写真:本人提供)
「スキルス胃がんの患者会を作りたい」という故・轟哲也さん(左)の気持ちに寄り添い、妻の浩美さんは尽力。哲也さんの遺志を継ぎ、がんについて正しく知る大切さを伝えている(写真:本人提供)

 身近な人ががんなどの病気になった場合、助けになりたいと思うのはごく自然な感情だ。だが、善意から発せられた「両親より先に死ぬのは親不孝」「弱気になってはダメ」「これで治る」という言動が、相手を傷つけることもある。AERA 2021年4月12日号の記事を紹介する。

【図解】寄り添いをハラスメントにしないために知っておきたいことは?

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「寄り添う」とはどんな意味ですかと聞かれたら、多くの人が「困っている人を支えること」、あるいは「体をぴたりとそばに寄せること」と答えるはずだ。いずれにしても、善意にあふれ、繊細で、やさしい印象が強い。しかし、大阪ガス勤務でがん経験者の谷島雄一郎さん(43)は、こう語る。

「『寄り添う』の延長線上にある励ましや共感、忠告は、相手が善意のつもりであっても、がん経験者や家族が傷つけられることがあります。つまり、寄り添われる側から見れば、時に諸刃の剣にもなりかねない、正解がなくて、悩ましい言葉なんです」

 谷島さんががんと診断を受けたのは、34歳のとき。長女の誕生に際し、生命保険を手厚くしようと受けた健康診断で発覚し、10万人に1~2人程度の希少がんであるGIST(消化管間質腫瘍)と診断された。

 長女誕生の4カ月後には肺に転移。翌年1月に食道を全摘し、肺も一部切除したが、約1年後に再発した。以降、谷島さんは計6回の手術を経験。完治の望めない現状だから、年3、4回の定期検診の前後は、特に神経が過敏になる。そんな時は身近な人であれ、見ず知らずの他人であれ、善意のつもりで発せられた言葉に傷つくことも少なくない。

 約7年前のこと。谷島さんはがんのイベントに参加した際、面識のない年配の女性から「私の夫もがんになりましたが、克服できました。ご両親より早く死ぬのは本当に親不孝だから、頑張ってください」と話しかけられた。

 他人から言われるまでもなく、幼い娘や妻を遺し、両親より先に旅立つ可能性は、もっとも直視したくないものだった。彼はざわつく気持ちを抑えて「頑張ります」と答えた。

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