■各局の番組配信サイト

――かつて在京キー局の“番外地”と言われたテレビ東京で、バラエティー分野をゼロから開拓してきた佐久間は、現在のテレビの苦境の原因をこう分析する。

 テレビ全体が厳しい状況に陥っている一番大きな原因は、各局がそれぞれの番組配信サイトを持ったことだと思います。ユーザーの可処分時間を動画コンテンツとテレビが取り合うなか、早い段階で各局が連帯できなかったために、ユーザーにとって「テレビ=不便なもの」になってしまった。コンテンツを作る力、とくにドラマとバラエティーに関しては、テレビは今なお高い能力を持っていますが、各局が足並みを揃(そろ)えられなかったことで影響力を失ってしまったのかな、と。

――佐久間にとってテレビ東京での最後の1年は、コロナ禍での最初の1年でもあった。多くの番組が総集編や過去回を放送していた時期に、佐久間の番組では感染対策を徹底しながらいち早く通常に近い形での放送を再開した。

 つくづく感じたのは、エンターテインメント、とくに笑いというものは、本当に社会がどん底に沈んだ時には役に立たないということ。どん底では食べ物やインフラ、医療、政治のほうが絶対に大事。だけど、それだけでは人は生きていけないんで。その立ち上がるタイミング、一歩踏み出さなければいけない時に、笑いが力になる。そういう意識で準備していました。

 新型コロナではみんなが等しく日常を奪われたから、変わらない笑いとか、変わらない日常を取り戻させてくれるようなものを届けたかったんです。で、そこから半年、1年が経ち、新型コロナが収束しないままいろんな問題も噴出している時期には、変わらないものだけではなく、変わった価値観もちゃんと反映した笑いというものも必要になってくると思う。今はちょうどその過渡期ですね。

■全部塗り替える新芸人

 たまに、お笑いの決定的な新世代って何なんだろうなと考える時があって。霜降り明星とか第7世代も含めて、今の芸人さんはみんなちょっと懐かしい部分も持っていて、だからこそ売れているんだろうと思うんです。でも、少しも懐かしさがなく、全部を塗り替えるような新しい芸人さんが出てきてほしい気持ちもあります。売れ方も、賞レース以外にもっと色々あっていいと思う。

――そこに風穴を開ける準備も着々と進行中だ。

 今後はテレ東の担当番組と並行して、アプリや動画配信サービスで新しい形のお笑い番組を作りたいと思っていて、具体的に話を進めているところです。イベントや舞台の演出もやりたいと思っています。

 失敗もすると思うんですけど、僕の信条として、「数字がいい時に偉ぶらないから、数字が悪い時に怒らないでね」というのがあって(笑)。ぜひ温かい目で見守っていただけたらうれしいです。(文中敬称略)

(構成/編集部・藤井直樹)

AERA 2021年4月12日号より抜粋