須田選手は当初、活動資金の支援を呼びかけていいのか、葛藤もあったという。

「オリンピックを目指してサーフィンを始める子どもたちが増えてきているなかで、国内チャンピオンになった私が活動資金に困っていると発信することは、その子たちの夢をつぶしてしまうのではないかとも思いました。でも、次世代の子どもたちに自分のような苦しい思いをしてもらいたくないから、正直に伝えることでサーフィンを取り巻く状況を少しでも改善できたらと思うようになりました」(須田選手)

■小口の支援をたくさん

 東京オリンピック・パラリンピック後には、今結ばれているスポンサー契約やアスリート雇用が解消される選手も少なくないと言われている。前出の武本さんはこう話す。

「企業からの資金提供がシビアになっていくなかで、企業からの大口の支援ではなく、たくさんの個人が少しずつ支援してアスリートを支える仕組みが選択肢の一つになればいい」

 こうしたファンとアスリートの新たな関係について、筑波大学体育系教授の菊幸一さんは「寄付文化が根づいていない日本で、真のボランタリズムやドネーション(寄付)文化を育てていく一つの突破口になる可能性がある」と興味を示す。

 スポンサー契約は、ユニフォームなどに企業ロゴをつけ、その広告の対価として資金を提供してもらうのが一般的だ。一方、スポーツギフティングはファンが、たぐいまれなる能力を「ギフト」された人にほれ込み、その能力を発揮してもらうための資金を提供する。いわば「無償の愛」だ。

「アスリートは、常に自分を見守ってくれている何かに対してきちっと応えられているか、と自分に問うことで、活躍し続けるモチベーションを保つことができます」(菊さん)

 多くのアスリートが直面するセカンドキャリア問題にも、スポーツギフティングサービスが有効ではないかと指摘する。

「選手がサービスを利用することで、ただ競技をしているだけでなく、自分は社会に対してどういうメッセージを訴えることができるのかを考え、自らをブランディングする機会を持っておくことは、引退後にも生きてきます」(同)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2021年4月12日号