「一生続けられるお稽古事を」と始めた浪曲三味線から浪曲師へ。そして浪曲師として一本立ちしてからの奈々福さんの功績は第11回伊丹十三賞を受賞するほど目覚ましい。6年前、大人気の浪曲師国本武春さんの急逝で火の消えかかった浪曲業界を盛り返し、新しい多くの浪曲ファンを生み出してきた。情の物語を朗々と巧みに歌い上げるその力強い「身体性」と、他ジャンルとの交流企画などを次々と生み出す名プロデューサーとして頭脳的な「知」との絶妙なバランスの25年の記録がこの本には詰まっている。

 出番を終えた奈々福さんのこのショットを木馬亭前で撮影していたら、老女が話しかけてきた。「あんたの本読んで、今日初めて浪曲を聴きに来たのよ」

(古典芸能エッセイスト・守田梢路)

■八重洲ブックセンターの川原敏治さんオススメの一冊

『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか? 日本の昔話で身につく税の基本』は、一般的な税金の解説書を読む前に、是非読んでほしい一冊。八重洲ブックセンターの川原敏治さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 桃太郎やかぐや姫などの昔話の登場人物を主役にして、彼らの行動に税金がかかると仮定し、ストーリー仕立てにしながら税の仕組みを解説。キャラクターも魅力的で、小説としても面白く読める。

 本書に登場する主人公たちは、結果的に税金を取られてしまう展開になることが多く、やや気の毒ではあるが、おなじみのストーリーの中に「経費」「減価償却」「相続」「贈与」などが違和感なく入っているので、非常にわかりやすい。また、課税についての事例紹介も、主人公たちの行動を元に具体的に示しているから、どのような税金が自分に関係しているのかということにも気づきやすい。

 一般的な税金の解説書を読む前に、税金とはそもそも何か、どんな意味があるのかなど、基本的な税金の考え方を押さえておくためには格好の一冊。

AERA 2021年3月22日号