元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
我が家の掃除道具。毎朝シャッシャとはいて捨てて約5分。誰かと分担するほどのこともなし(写真:本人提供)
我が家の掃除道具。毎朝シャッシャとはいて捨てて約5分。誰かと分担するほどのこともなし(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが毎朝家で使う道具とは?

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 またまたアエラの記事が私のツボにはまり、家を売る話を中断してそのことを書く。

 前号の家事特集。コロナによる在宅勤務で女性の家事負担が増えていることは友人の動向からも感じていた。全くなぜそうなるのか。在宅なら誰でも家事できるでしょうよ。そのモヤモヤは曖昧に済ませて良いことではない。男も当事者意識を。全くその通り!

 でも一つ、引っかかったことが。

 家事格差の背景に男女の賃金格差があるという指摘である。夫婦の収入に差があると、稼ぎの少ない方が家事をする方が合理的となり、この問題を放置したままでは根本解決にならぬという。ニワトリが先かタマゴが先かという議論になってる気がしないでもないが、私が引っかかったのはそこではない。

 稼ぎの多寡と、家事をすることとの間に、一体何の関係が……?

 そんなふうに思うのは、私が独身なせいだろう。一人暮らしの人間は、稼ぎが多かろうが少なかろうが家事をするのは当たり前である。もちろんやらなくてもいいが、その場合は暮らしが荒れ、結果は他でもない自分に返ってくる。なのでまさに当事者として、面倒でも不得意でも最低限の家事はこなさねばならない。その苦闘の末に、自分なりの「家事と仕事のバランス」を見つけていくのである。

 これを自立というのではないだろうか。

 私はこのようにして何十年もかけてなんとか自立を果たすことができた。今にして思えばそれはかけがえのない宝であった。50歳で会社依存を脱却し、広い世界に向かって一人、失敗しながらも心から納得のいく人生を歩み始めることができたのは間違いなくこの自立のおかげだ。

 自分の力で自分の暮らしを整えることができるのは、大人の嗜みであり特権である。自由への扉である。これができればどうやったって生きていける。だから家事は誰であれやるべきだと思う。男も女も子供も、自分のことは自分でやる。他でもない自分の人生のために。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2021年3月22日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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