日比谷図書文化館「複製芸術家 小村雪岱 装幀と挿絵に見る二つの精華」展(3月23日まで)は、真田さんのコレクションから選んだ本や原画で構成されている。タイトル通り、連載小説の挿絵など雑誌媒体での仕事が、掲載誌とともに多数、展示されているのは圧巻だ。

「雪岱は当初、日本画家を目指していたが、うまくいきませんでした。さまざまな分野での仕事が認められた後、親しかった鏑木清方が肉筆画で描くことを勧めると、雪岱は笑ってごまかしていたそうです。雪岱の仕事のほとんどは印刷を通して表現する、複製を前提としたもので、圧倒的に大衆に愛されました。複製芸術は雪岱の才能と合っていたと思います」(真田さん)

■資生堂書体の源流

 当時としては珍しく、雪岱は自分好みのフォントを何種類か決め、使い続けていた。装幀に「雪岱文字」と呼ばれる、独特の書体を使い、雪岱のデザインを印象づけた。

 そんな雪岱をデザイン部門である「意匠部」に招いたのが資生堂だ。雪岱は1918年から23年まで特別待遇で資生堂に招かれている。

「雪岱が資生堂に残したもっとも大きな影響は、今に伝わる資生堂書体の源流となる『雪岱文字』を持ち込んだことでしょう。様々な分野にまたがる雪岱の魅力を、ぜひ知っていただきたいです」(同)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2021年3月22日号