『おせん』から「雨」 木版、1941年頃/右下で、黒い頭巾をかぶっているのが、主人公のおせんだ(三井記念美術館提供)
『おせん』から「雨」 木版、1941年頃/右下で、黒い頭巾をかぶっているのが、主人公のおせんだ(三井記念美術館提供)
「喧嘩鳶」(「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」、1938-39年)/雪岱は独自の画風「雪岱調」を獲得した(真田幸治さん提供)
「喧嘩鳶」(「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」、1938-39年)/雪岱は独自の画風「雪岱調」を獲得した(真田幸治さん提供)
泉鏡花『龍蜂集』春陽堂、1923年/画号「雪岱」も鏡花によって授けられた(真田幸治さん提供)
泉鏡花『龍蜂集』春陽堂、1923年/画号「雪岱」も鏡花によって授けられた(真田幸治さん提供)

 鏡花ら作家たちに愛された小村雪岱。装幀、挿絵、舞台装置などの分野で活躍した雪岱に関する展覧会が、三井記念美術館と日比谷図書文化館で開催中だ。雪岱の魅力に迫る内容になっている。AERA 2021年3月22日号に掲載された記事を紹介する。

【画像】連載小説「喧嘩鳶」の挿絵はこちら

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 華やかで美しい装幀(そうてい)で泉鏡花をはじめとする作家たちに愛された小村雪岱(せったい)(1887-1940)。雪岱が装幀した鏡花の本は、その美しさから「鏡花本」と呼ばれ、今でも多くのコレクターがいるほどだ。

 装幀、挿画、舞台装置。そして資生堂書体など、多彩な分野で活躍した。江戸情緒をモダンな感覚で表現した雪岱のデザインは、新聞、雑誌、舞台美術と幅広いジャンルに及んだ。

 近年、人気とともに美術史的な評価も高まっている雪岱の展覧会が、東京都内2カ所で開催中だ。

■広いジャンルで愛され

 三井記念美術館で開催中の「小村雪岱スタイル」(4月18日まで。その後、富山、山口へと巡回予定)の監修者である、美術史家の山下裕二さんは「自分にとっての国宝は、雪岱の『おせん』です」と語る。

「降りしきる雨の中、傘を差す人びとを俯瞰(ふかん)する大胆な構図。モノクロームの均質な線描と墨一色のフラットな面だけで、叙情的な光景を見事に表しています。なんとカッコいいグラフィックデザインでしょう」(山下さん)

 本展では装幀した書籍、吉川英治、里見トン(※トンは弓偏に享)らの作品に描いた挿絵の原画のほか、貴重な肉筆画や「雪岱スタイル」に呼応する工芸作品が展示されている。また、歌舞伎の「桐一葉」など今日でも使われている舞台装置の原画もあり、多様な活躍を見ることができる。

「装幀、挿画、舞台装置──異なるジャンルで活躍し、それらが三位一体となって進んだのが雪岱の特筆すべき点です」

 そう語るのは、自身も装幀家で雪岱のコレクター、真田幸治さん(48)だ。装幀が縁で連載小説の挿画、そして舞台装置へと仕事の場が広がったのだ。

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