私の本にしても、「日本にはこんなに美しい場所がある」と知っていただくだけで十分。美しい景観は儚いものなので、私をなぞって「巡礼」に行く必要はないと思います。その代わり、自分たちが暮らす場所の周辺で、すばらしい景観を探してみてほしい。そして、それを見つけた時は、親しい人だけで分かち合い、そっとしておく。それが旅の最先端です。
――目の前で「旅の哲学」そのものが変わっている。
コロナ禍は「旅をする」という行為に革命的な変化をもたらす節目です。私の若いころ、旅は未知の世界に赴くアドベンチャーでした。しかし、検索でほとんどのことが簡単に調べられるいま、人気の場所に行っても、大勢の観光客の中に埋もれてしまうだけ。それではアドベンチャーになりません。
逆に忘れられた土地、さびれた場所、観光の恩恵が行き渡らない僻地に行き、そこで地元の人のためにお金を使う。人とのつながりが生まれたら、地元の経済が活性する仕組みを考えたり、高齢者が担っている畑や森林の仕事を手助けしたり。
アフターコロナの時代は、あなたや私を必要としている場所に行くことで味わえる充実感が、新しい価値として、人々に浸透していくのではないでしょうか。
(構成/ジャーナリスト・清野由美)
※AERA 2021年3月22日号