日本だと個人所有になることが大半のクレヨンや絵の具、のりやティッシュもアメリカでは各家庭から持ち寄ってみんなで使います。物によってはメーカー名まで指定されるので、買い出しは味気なくもあり、また非常にカンタンでもあります。工夫する余地がないので、家から一歩も出ずにオンラインで入園準備を完了させることも可能です。

 共有品のよさは、なんといっても記名が不要なことです。日本だとクレヨンや鉛筆1本1本にまで記名をしなければいけませんよね。おなまえシールやスタンプのような便利グッズもありますが、それでも物品ひとつずつに記名をするのは手間です。アメリカ式に、ほとんどのお道具を共有にしてしまえば手間は減るのに……。

 共有が進まないのは、個人所有が習慣になっているからに加え、日本ならではの“平等主義”が関係しているように思います。すべての道具が共有になったら、「たくさんクレヨンを使う子とそうでない子の間に差が生まれて不公平だ」といったクレームが出るかもしれないということです。

 アメリカの人たちはそもそも、こう考えている人が多い印象です。「クレヨンを100本買える家庭は買って提供したらいいし、50本しか買えない家庭は50本でいい」。すべての家庭・子どもに差があるのは当たり前で、その差は肯定すべきだという価値観です。

 先ほど挙げた園指定の共有グッズも、先生が厳密に中身をチェックすることはありません。グッズを入れた大きな紙袋を渡して、それでおしまい。実はわが家では、準備リストに入っていた「除菌ワイプ:2パック」を用意することができませんでした。入園準備を行った昨年の8月はまだパンデミックの最中で、除菌グッズが見つからなかったのです。その旨を告げると、先生はこう言いました。「大丈夫ですよ、誰かほかの人が持ってきてくれているでしょうから」。

 自分ができなかったら、誰かほかの人がしてくれる──。日本では責任感がないと怒られてしまうかもしれませんが、なんともおおらかで気持ちが軽くなる言葉です。ただ、他の人のお世話になる代わりに、自分でもできる範囲のことをできるタイミングで行おうと多くの人は思っています。実際わが家も、除菌ワイプが見つからなかった代わりに「余裕があったら提出してください」の項目にあった色紙を持参しました。各自にできる精いっぱいのことを、全員が行なって支えあう。それこそが真の平等主義かもしれません。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカで6年暮らし、最近、日本に帰国。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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