ほかにも廃炉作業は課題が山積している。燃料デブリの次に重要な使用済み燃料プール内に残る核燃料の取り出しは3号機と4号機で終わった。だが、メルトダウンして建屋内の放射線量が高い1、2号機は手つかずのままだ。

 敷地南側には、1千基余りの処理済みの汚染水を入れたタンクがびっしり立ち並ぶ。タンクが満杯になるのは「22年秋ごろ」(東電)。海洋放出が有力視されるが、風評被害を心配する漁業者の反発は必至で、これも難題だ。残り約30年で廃炉作業を終えることはできるのか。先の木元副所長は、

「工程最優先ではなく安全を大前提に、その時その時のベストをつくしたい」

 とだけ話した。

 廃炉制度研究会代表で、『原発「廃炉」地域ハンドブック』(東洋書店新社)の編著もある尾松亮さんは、廃炉の最大の問題点は「廃炉とは何かを規定した法律がないことに尽きる」と指摘し、こう続ける。

「このままだと、燃料デブリは取り出せない、原子炉も解体されない、廃棄物も敷地内に残ったままという状態であっても51年に廃炉終了宣言を出せます。しかし、それは違法ではない。ここまでやらなければいけないという法的義務がないからです。法的に定義がない以上、東電はここまでやらなければいけないという義務もありません。国も東電も、何が完了したら福島第一原発の廃炉完了かという法的定義のないまま、30~40年後の終了を目指し作業を進めているのです」

■ゴールがわからないまま走り続けるようなもの

 何をもって廃炉を終えたとするのか。実は、このことが決まっていない。通常「廃炉」は、運転を止めて核燃料を運び出し、原子炉や建屋を解体して更地に戻すことを指す。だが、福島第一原発の工程表に、その姿はない。

 本誌は、東電の廃炉部門のトップ、福島第一廃炉推進カンパニーの小野明氏(61)に話を聞いた。

「福島第一原発の廃炉の定義は、放射性物質によるリスクをどうやって低減していくか。ただ、『廃炉の最終的な姿』はわれわれ一事業者が決められるものではない。いろいろな人の意見を聞きながら、コンセンサスをとって最終的な姿を決めていくことになると思う」

 と言葉を濁す。では、仮に51年に燃料デブリを取り出せていなくても「廃炉終了」を宣言するのか、しないのか。

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