震災直後の2011年から、住民の多くは防潮堤建設に反対してきた。高台移転によって命を守りつつ、景観を生かした復興に取り組む――。一方、県は高台移転をしつつ、防潮堤建設によって「道路を守る」と主張した。当初は住民と一体になって防潮堤建設に反対した石巻市役所雄勝総合支所は2012年に防潮堤受け入れへ方針を転換。徳水さんらは住民団体「持続可能な雄勝をつくる住民の会」をつくって防潮堤の見直しを訴え続けたが、やがて工事が始まった。

「第一に、防潮堤は雄勝の自然を破壊します。海底20mまで鉄板を打つことで地下水や伏流水の流れが断ち切られ、将来的に漁業や生態系に深刻な打撃を与える危惧がある。第二に、景観の問題があります。高い防潮堤をつくらずに原型復旧して自然を生かした街づくりを私たちはイメージしていた。そして第三に、防潮堤建設は『無駄な公共事業』です。『防潮堤反対』は断じて『安全の軽視』ではありません。命を守るための高台移転は私たちも反対していません。しかし、高台移転したうえで防潮堤を整備するのは二重の投資で、復興を遅らせるだけです」(徳水さん)

 防潮堤がほぼ完成に近づいたいまも、その思いは変わらないという。

「私たちは、こんなコンクリートに囲まれた街をつくるために残ったわけじゃない。県への憤りは今もあります。でも、現実に防潮堤はできてしまった。土木関係者など防潮堤賛成の人も含めて地域だし、復興を進めるうえで行政当局はパートナーでもある。現実をリアルに見て、限られた条件の中で、できることをやっていきます」(同)

 2017年から栽培を始めた北限のオリーブは、既に搾油を始めるまでになった。ただ、今後実際に「産業」として育っていくかはまだわからない。10年後、20年後の雄勝に「持続可能性がある」と言い切れる確信もまだ見えない。

「それでも、できることをやるしかない。いまは100のうち1しか見えていなくても、まずはそこまで行ってみる。そうすれば次が見えてくるはずです。震災を経て思うのは、1日1日の積み重ねの先にあるのが、10年後、20年後だということです。希望とは一歩の行動を縦糸に住民や支援者との連帯を横糸に、足元から自ら紡ぎ出すものです」

(文/編集部・川口 穣)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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