関係者は「ヤフーとLINEのIDを統合しなければ、両社が連携したキャンペーンは不可能。だが、IDの統合は遅れている。3月1日の予定だったがまだ4、5カ月はかかる。IDが統合できなければ、両社の統合の意味がないのだが……」と打ち明ける。LINEの利用者だけでも8千万人という膨大な数に達することなどから、ID統合が難航しているようだ。

 両社が統合効果として最初に目指すのは、ヤフーが手がけるネット通販の強化だ。ヤフーとLINEの機能を連携させることでより効果の高い広告を行い、ネット通販での販売を促進する。それにより、なかなか追いつけないままの楽天アマゾンを上回る流通規模を目指す方針を明言した。

「販促市場はブルーオーシャン(未開拓の市場)だ」

 ZHDの共同CEOに就いたヤフーの川辺社長とLINEの出澤剛社長はそう強調し、2023年度の売り上げ目標を20年度のほぼ倍の2兆円とした。

 ただ、ネットの広告は現在、センシティブな議論が世界で巻き起こっている。問題になっているのは、ネットの閲覧履歴を追跡する技術「Cookie」を元にした広告だ。

 例えばゲームソフトをよく通販サイトで閲覧している利用者にはゲームソフトの広告が表示されるなど便利な面も多かったが、この広告配信手法は個人情報意識の高まりとともに「勝手に閲覧履歴などを盗られている」と受け止められ、欧米を中心に規制が進んでいる。

 巨大IT企業への規制に詳しい中央大学国際情報学部の中島美香准教授は「世界的な個人情報保護の動向をみながら、(広告の)取り扱いを考える必要がある」と指摘する。

 競合の楽天は、Cookieを利用せず、楽天IDにひも付けられた様々な楽天のサービスの利用情報を元に広告を配信する考えを明らかにしている。その点では、総利用者3億人のZHDが握り、活用しうる利用者の情報ははるかに膨大だ。

■公取委が「統合後」注視

 ZHDは22年4月に、ヤフーとLINEのスマホ決済サービスを、ヤフーのPayPayに一本化する考えだ。統合後はスマホ決済市場の6割のシェアを握るとみられ、ネットと現実世界の両方で、「お金が何に、いくら使われているか」という巨大なデータを握ることになる。

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