政策研究大学院大学の土谷隆教授のシミュレーションによると、3月8日からの2週間、「飲食店以外も対象にした昨年4月の宣言相当の厳しい感染対策」を行えば、5月には東京の1日の新規感染者数を2桁に抑えられるという。とはいえ、あの頃のような生活はもう勘弁……と感じる人は多い。

 尾崎会長は言う。

「今、緊急事態宣言への慣れや気の緩みで、現に感染者が減っていない。『なぜ、延長になってしまったのか』を国と私たちがいま一度しっかりと共有することが大事です。そのうえで、仕事におけるリモートの徹底や飲食店の感染対策など具体的なポイントも挙げつつ、国や自治体のトップが『もう2週間、思いっ切り努力してみましょう!』と、雰囲気をガラッと変えるような訴えをしないと効果はない。今のままではむしろ『これ以上の我慢を続けるなんてもう限界だ』と、延長による反動でさらに緩んでしまう可能性もあると私は危惧しています」

■宣言の意味を見失った

 尾崎会長は3月2日、自身のSNSにこう投稿した。

「100年前のスペイン風邪は、終息に3年かかりました。今まさしく、100年に一度の試練がやってきました。でも、まだ戦いは1年です。経済も含めて、これからさらに年単位の戦いが続くと思っています」

 感染を抑えるために、まだまだ我慢が必要。ただそこで必ず出てくるのが、「感染対策か、経済か」という二項対立だ。

「現状では『医療サイド』と『飲食業・観光業サイド』がバトルするような構図があり、それを政府や厚生労働省が傍観しているような形になっている部分があると感じている」

 そう話す尾崎会長は、本来、対立の構図は誤りだと話す。

「不完全な形で緊急事態宣言を解除すれば、必ずリバウンドは来る。また緊急事態宣言を出すようなことになれば経済はさらに打撃を受ける。徹底的に、抑えられるだけ感染を抑えておくことが、経済にとっても早道になるんです」

 だからこそ、リーダーのメッセージが必要だと感じる。

「医療サイドも、経済でいま打撃を受けている飲食業や観光業の方も一緒になって、日本中のみんなが協力して乗り切りましょう、というメッセージをリーダーが出すべきです。現状では、たとえ緊急事態宣言が出ていても『何をどのように守ればどんな効果があるのか。どんな目標を達成できるのか』ということを、国民一人ひとりが見失っているように思えます。解除の是非の議論は、そこをいま一度見直すよい機会にもなり得ると考えています」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2021年3月15日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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