辺野古新基地建設のため、国が沖縄本島南部から埋め立て用の土砂を採取する計画を打ち出したのが発端だ。沖縄防衛局は県内で調達可能な土砂量の約7割に当たる約3200立方メートルを、糸満市と八重瀬町という沖縄本島南部の自治体から採取する計画を示した。この情報をキャッチするや、具志堅さんは何とか思いとどまらせようと、国や沖縄県、国会議員や県議、マスコミなどに繰り返し、本島南部の土砂を埋め立てに使わないよう訴えてきた。私も昨年10月に、インタビューさせてもらった一人だ。

 具志堅さんは本島南部に未回収の遺骨が特にたくさん残っていること、余程丁寧に精査しなければ土砂と遺骨の見分けがつかないことなどを丁寧に説明してくれた。そして、「戦没者への冒とくは許されない」と憤り、「沖縄だけの問題ではない」とこう強調した。

「沖縄には、全国から兵士として送り出された人たちの遺骨が今なお残されています。辺野古新基地建設への賛否とは別に、せめて本島南部の土砂を使うのは止めるよう、全国のご遺族の方たちも一緒に声を上げてほしい」

 だが何も変わらなかった。

 今年1月には、糸満市の採掘業者が沖縄戦跡国定公園内の「魂魄の塔」近くの鉱山での開発届けを県に提出。県が受理すれば工事再開という事態まで差し迫り、具志堅さんは体を張って訴えるしかない、と考えたのだ。
具志堅さんは、国定公園の風景を保護するため土石の採取などを制限できる自然公園法33条2項に基づく中止命令を、玉城デニー知事や県議会に求めている。

 ただ、国定公園での規制は前例がなく、公園内にはすでに開発されている鉱山もあり、公平性や制限の基準を明確にする必要があるため県は慎重に検討している。

 沖縄の地元紙は、開発届けを出した地元の採掘業者の声も丁寧に伝えている。

 業者は「防衛省への出荷実績はない」としながらも、「当然、利益を最大限出したい」という本音も明かしている。一方で「採掘するのは表土の下にある石灰石。遺骨が見つかった表土は元に戻すので埋め立てに使われることは絶対にない」とも強調している。

 地元業者にとって県民の一定層の反発を受けるのは不本意に違いない。同時に小規模事業者にとっては、公共事業を請け負うチャンスのある採掘の諾否は死活問題なのかもしれない。

 これまでも本島南部で開発は進められ、土砂採取されてきたのは事実だ。県民の多くが反対する新基地建設に使われる状況が浮上しなければ、ここまで大きな問題に発展しなかった可能性もある。

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「あいまいな喪失」という言葉