民間団体が集める細かな被災情報が、行政の物資支援に役立てられた。行政が実施する施策もNPOに共有され、支援活動に生かされた。7月には、火の国会議に参加する地元団体を基盤に、「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD(ケーボアード))」が立ち上がる。代表に就いたのは樋口さんだ。

本には300超の団体が全国から集まっていましたが、ずっといてくれるわけではない。復旧活動は長く続きます。復興を担い、新たな災害に備えるためには地元主導で連携の枠組みを作っておく必要がありました」

 熊本地震で築かれ、KVOADへと昇華した連携の仕組みは、今も生かされている。昨年7月、熊本県南部を襲った豪雨災害では、KVOADが中心となって発災直後に「火の国会議・豪雨版」が始まった。コロナ禍で県外からの支援を限定せざるを得ない中、初動から地元で連携できたことは大きかったと樋口さんは振り返る。

「行政と民間がタッグを組んで、地域の防災力を高める。その必要性を改めて感じた。そのための活動を続けます」

 前出の栗田さんは、熊本地震が起きた16年を「情報共有会議元年」と呼ぶ。18年の西日本豪雨や19年の台風被災地などでも、各地で連携の仕組みができた。KVOADのように県域で支援調整を担う枠組みも、少なくとも19都道府県で生まれている。

 一方、課題も多い。すべての自治体が民間団体の役割を理解しているとは言い難い。災害ボランティアセンターも、一般ボランティアが担えない支援ニーズを「できない」と断りがちだ。また、直接支援を担わないJVOADのような中間支援組織には資金が集まりにくい。それでも、直接的な被害から逃げ延びた先で、亡くなる人を見たくない。栗田さんは力を込める。

「被災は人生の一大事。『助けて!』と声をあげていいし、声をあげられない人も見つけたい。そのとき、『助けられます!』と手を挙げられる社会にしたい。行政やNPOに届くさまざまな声に直接対処できなくても、『できません』で終わらせちゃダメ。自分にできなくても、あそこなら何とかできる、そんな横のつながりが必要です」

(編集部・川口穣、野村昌二)

AERA 2021年3月8日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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