「なぜ無理だとわかるんですか? 私がプロになれるかなれないか、なぜ無理だと?」。スインの質問に答えられる大人はいない。なぜ無理なのか。スインの言葉は、当たり前のように性差別を受け入れている自分自身にも跳ね返ってくる。

 切実なスインのせりふは、どのように生まれたのか。妻や女性たちへの取材からだったのか。そう監督に問うと、「女性の気持ちを書こうと思っていたわけではない」と、思いがけない言葉が返ってきた。

「実は、私自身の気持ちをスインに語ってもらうように書きました。私自身、少し言語障害があり、学力も高くはありません。監督になる前は、いつも撮影現場で『君は監督にはなれない』と言われてきました。そんな体験もスインのキャラクターを創作する上で助けになったと思います」

 韓国で多くの人の心に響いたのは、単に「男女差別」だけにとどまらない、普遍的な「差別」の意味を問うているからなのだろう。

◎「野球少女」
大ヒットドラマ「梨泰院クラス」でブレークしたイ・ジュヨン主演作。3月5日公開予定

■もう1本おすすめDVD「少女は自転車にのって」

 サウジアラビア映画「少女は自転車にのって」(2012年)は、「女は自転車なんてダメだ」「自転車に乗ったら妊娠できなくなる」と、職業どころか自転車に乗ることさえ許されない少女の物語。声高に男女差別を訴えるのではなく、ダメだと言われてもあきらめない少女の奮闘ぶりを、ユーモアをもって描く。

 10歳のワジダは校則を破るのもへいちゃらの問題児。自転車を乗り回し自分をからかう幼なじみの少年に、「自転車を買ったら競争よ」と負けん気も強い。ワジダは自転車競争を実現すべく、母に自転車をねだるが「女の子が自転車なんてとんでもない」とにべもない。そこでワジダはミサンガを編んでは友人に売りつけたり、恋の仲介役となって手数料を取ったり。小銭を貯めるが自転車代の800リヤルには遠く及ばない。

 そんなある日、学校で「コーランの暗唱大会」が開催されることに。賞金はなんと1千リヤル。ワジダは賞金欲しさに、猛然とコーランの勉強を始めるが……。

 男女差別が当たり前の国で、したたかに生きるワジダの姿に希望を見る。行動しなくちゃ始まらない! 見ているうちにそんな力が湧いてくる。

◎「少女は自転車にのって」
発売・販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

AERA 2021年3月8日号