エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
2月20日、大坂なおみ選手はテニスの全豪オープンで2年ぶり2度目の優勝を果たした(gettyimages)
2月20日、大坂なおみ選手はテニスの全豪オープンで2年ぶり2度目の優勝を果たした(gettyimages)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【全豪オープンで2年ぶり2度目の優勝を果たした 大坂なおみ選手の写真はこちら】

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 スポーツって本当に、生きる喜びそのものだなと感じた試合でした。テニスの全豪オープン2度目の優勝を勝ち取った大坂なおみ選手。たまたま過労で寝込んでいた私は、大坂選手の準決勝と決勝の生中継をベッドで見ました。胃腸を壊してヘロヘロだったにもかかわらず、試合を見ているうちに文字通り血湧き肉躍る感覚が漲(みなぎ)ってきて、気づけば半身を起こして画面に向かって拍手していました。

 失点しても大坂選手はすぐに気持ちを切り替えて素晴らしいプレーをし、圧倒的な強さで勝利。私だったら立ち直れないかも……などと我が身に置き換えて見ていたら、だんだん大坂選手の力強い冷静さがうつってきて「今はおなかが痛いけど、落ち着いて養生すれば大丈夫」と前向きな気持ちになれました。スポーツが人を元気にするってこういうことかあ、とつくづく実感。身体能力と知力を尽くして挑戦する姿は、まさに命の輝きそのものですね。

 大坂選手は、黒人やアジア人に対する人種差別に抗議し、森喜朗・前東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の女性差別発言を無知だと指摘しました。そうした姿勢を「政治的だ」と批判する声に対しては、人権擁護の姿勢をはっきりと示しています。スポーツが命の輝きなら、差別や暴力は、命への攻撃。コートでのプレーと差別に対する抗議は、人の命を讃(たた)え尊ぶことにおいては地続きです。プレーに専念しろという批判があるけど、アスリートが人権について発言するのは「本業」と何ら矛盾のないこと。和やかな人柄で、それを毅然と体現している大坂選手は、多くの人に勇気を与える存在です。

 スポーツは人生に楽しみを与えるものであり、生き方のモデルでもあります。アスリートには、同調圧力に耐え忍ぶ根性よりも、圧力に対して声を上げる勇気を示してほしいと心から思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年3月8日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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