「幼いころ、自分の目標は歴史を作ることだった。私の場合、日本人として初めて4大大会で優勝することだった」

 ハイチ出身の父と日本人の母との間に生まれた大坂にとって、それだけ「母国」への思いが強いことがわかる。

■多様性を重んじる象徴

 そういえば、昨年3月、東京五輪の延期が決まったときに、こんなメッセージを日本語と英語でSNSにアップした。

「サポーターの皆さんは私にとって母国である日本で開催されるこのオリンピックがどれだけ重要な意味を持っているのかご存じだと思います」
「スポーツは人々の心を繋ぎ、感動を与えるパワーがあります。しかし、今私達がしなければいけないことはスポーツを救う事ではなく、世界中の人々が人種や国籍の壁を越えて、数多くの命を救うのが一番大切なことです。それこそまさにオリンピック精神ではないでしょうか」
「日本人のみなさま2021年に我が国の美しさを世界の皆様に見せましょう」

 狙った獲物は逃さない。大坂は本気で金メダルを狙う。

 だとしたら、日本オリンピック委員会(JOC)は、大坂に開会式の旗手をお願いしたらどうか。テニスは開会式翌日に始まるけれど、開催国屈指のスターに敬意を表し、夕方以降に初戦を組むことは可能だろう。

 東京五輪・パラリンピックが掲げるビジョンに「多様性と調和」がある。昨年、米国から世界に賛同の輪が広がった「黒人の命も大切だ(BLM)」運動で率先して発信した大坂は多様性を重んじるアスリートの象徴だ。ジェンダーギャップ指数で日本は主要7カ国(G7)で最下位。時代遅れ感からの脱却を印象づける上で、グローバルなアイコンの大坂はうってつけの人選に思える。(朝日新聞編集委員・稲垣康介)

AERA 2021年3月8日号