■側近が受けた豪華饗応

 総務省が出したリストには載っていなかった接待がある。その額は、全体でもダントツの7万4203円。総額ではなく、1人あたりの金額だ。接待を受けたのは、当時総務審議官で、内閣広報官として菅首相の側近を務めてきた山田真貴子氏だ。形式上総務省を外れているため、別建ての発表となった。

 山田氏と、前出の谷脇氏は当時、同じ総務審議官。しかも2人は同期入省組で旧郵政省出身という共通点がある。菅首相に近い自民党議員はこう証言する。

「谷脇氏は菅政権肝煎りの携帯電話料金値下げ事業のキーパーソン。山田氏は内閣広報官として菅首相の記者会見を矢面に立って差配する。2人とも菅首相にとっては頼りがいのある優秀な人材ですよ」

 山田氏は25日の衆院予算委で会食を認め謝罪したが、正剛氏が同席していたかや会話の内容は「記憶にない」とはぐらかした。総務政務官の経験がある国会議員は、かつて部下だった山田氏を「実務をこなせる優秀なキャリア人材。行き届いた気配りに長けた人物」と評する。

 しかし、その「行き届いた気配り」は、時に「行きすぎ」となる。山田氏は菅首相がNHK番組に出演した際、学術会議問題に関しキャスターが想定にない質問をしつこく重ねたことを問題視し、NHKに抗議の電話をかけたとも言われている。また、総務省時代、これから社会人となる若者へのメッセージの中で「飲み会を断ったら二度と誘われない。私は飲み会を断らない女です」と発言していたことも話題をさらった。

 国会に参考人として出席し、陳謝した山田氏に、野党は一斉に広報官の辞任を要求。共産党の志位和夫委員長は25日の会見で「広報官は首相会見を運営する。記者から(自身の問題を)問われ『もう時間だから』と打ち切るつもりか」と批判した。

■「女性として」にも反発

 しかし菅首相は「本人は深く反省し、おわび申し上げている。やはり女性の広報官として期待しているので、そのまま専念してほしい」と続投を明言。山田氏が月給の6割にあたる70万円を自主返納することで幕引きを図ろうとしたが、沸き上がる世論の反発に抗しきれず、3月1日の閣議で辞任が決まった。前出の自民党議員は、追い込まれるまで山田氏の更迭を決断できなかったことが後々命取りになるのではと危惧する。

「自主返納だけでこの問題を済ませ、広報官を続投させようとした。『首相は自らの意に沿わない官僚には人事を振りかざし更迭させるが、長男(正剛氏)や山田氏ら身内には甘い』との批判がいつまでも噴出し続ける」

 また菅首相が続投の理由として「女性」を持ち出したことにも世論は反発。結果的に山田氏が辞任に追い込まれたあとも予算委員会での追及は終わる気配がなく、政権への深刻なダメージとなるのは必至だ。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年3月8日号