■鮮明になった党内分裂

 評決の直後にも、大逆転劇があった。共和党で最も権力がある重鎮ミッチ・マコネル上院院内総務が議場で声明を発表し、トランプ氏に熾烈(しれつ)な非難を浴びせかけたからだ。

「あの日の事件を引き起こした事実上、倫理上の責任をトランプ氏が負うことには、全く疑いの余地がない」

「(トランプ支持者は)選挙に負けたことに怒っていた、地球上で最も力のある男から狂気じみた嘘を吹き込まれていた」

「上院の無罪評決は、トランプ氏の任期中の行動に対する刑事・民事上の潜在的な責任を免れられるものではない」

 弾劾裁判が終われば、議事堂襲撃事件に関して、トランプ氏が民事・刑事的に「容疑者」になり得るとして、トドメを刺した。彼と共和党主流派が、トランプ時代を乗り越えようとしている表れだ。また、マコネル氏は、彼と主流派の共和党上院議員が無罪票を投じたのは、弾劾裁判で有罪とできる対象が、「現職大統領」だという憲法解釈による理由だと明らかにした。つまり、彼らが「無罪」だと思って反対票を投じたのではなく、唯一の理由は「憲法上、裁けないから」というものだった。

 一方で、2016年の大統領選予備選挙でトランプ氏に対抗したテッド・クルーズ上院議員などは、いまだに「選挙結果は盗まれた」と主張。来年の22年中間選挙で全議席の改選がある下院の共和党議員の多くも、トランプ氏の人気に当選を賭けている。

 実際、トランプ氏は大統領任期中、支持率が50%を超えなかったものの、最後まで40%前後をキープした。それだけの支持率を持つ全国ブランドの共和党リーダーが現在、いないのが実情だ。

 しかし、こうした共和党内の分裂を見て、24年米大統領選挙の候補者の名前が、早くも浮上してきた。

 米紙ニューヨーク・タイムズの保守派コラムニスト、ブレット・スティーブンズ氏は、トランプ政権で国連大使だったニッキー・ヘイリー氏を同紙のオピニオン欄で支持した。

次のページ