写真:クランテテ三田提供
写真:クランテテ三田提供

 約100年前に生まれたモンテッソーリ教育。日本では将棋藤井聡太二冠が幼稚園時に受けたことで注目を集める。集中力を生かし個性を磨く教育メソッドとは。AERA 2021年3月1日号から。

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 マッチを擦ってろうそくに火をともす。野菜を包丁で切る。これらを行っているのは、日本モンテッソーリ教育綜合研究所附属「子どもの家」(東京都大田区)の園児たち。おぼつかない手付きに手を差し伸べたくなるが、幼児に危険が及ばない限り、教師は後ろで静かに見守っている。なぜあえて「あぶない」ことをさせるのか。同園副園長の櫻井美砂さんは言う。

「子どもの成長過程をたどると、3歳ぐらいまでは動くこと自体が楽しいのですが、それ以降は自分の動きをコントロールすることに興味を示します。本物を使うことで子どもは洗練された動きを身につけ、道具を正しく使うことを覚えます。動きをコントロールすることは、精神の発達にもつながります」

 モンテッソーリ教育は1900年代初頭、イタリアの女性医学博士マリア・モンテッソーリが創案した教育メソッドだ。

■オバマやビル・ゲイツも

 彼女は物乞いをする母親の隣で、紙切れで無心に遊ぶ子どもの姿を見て、啓示を受けたと言われる。モンテッソーリは、子どもは興味があることをやるとき、高い集中力を見せることに着目。そこから物事を教え込むのではなく、子どもが自分の力で伸びていく「自己教育力」に基づくメソッドを開発。現在は欧米を中心に採り入れられ、オバマ元米大統領(59)、マイクロソフト創始者のビル・ゲイツ(65)など多くの著名人がその教育を受けている。日本では、将棋の藤井聡太二冠(18)が幼稚園でモンテッソーリ教育を受けていたことで注目度が高まった。

 モンテッソーリ教育の特徴は、冒頭で示したような「お仕事」と呼ばれる活動だ。「日常生活の練習」「感覚教育」「算数教育」「言語教育」「文化教育」の五つの領域で構成され、それぞれにふさわしい教具が取りそろえられている。子どもの家では、ワンフロアに五つの領域が配置され、朝の支度が済んだ後、子どもは自分の好きな「お仕事」を選ぶ。例えば「日常生活の練習」では洗濯をしたり、「感覚教育」では同じ色の積み木を重ねたり、「算数教育」ではビーズを数えたり、「言語教育」ではひらがなをなぞったりという具合だ。時間がたっぷりととってあり、やりたいことを思う存分やることで満足感を得る。

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