伊藤詩織(いとう・しおり、左)/1989年生まれ。主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信。著書『Black Box』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞。2020年9月、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた/石川優実(いしかわ・ゆみ):1987年生まれ。2019年に、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとして#KuToo運動を展開し署名を厚生労働省に提出。同年英BBCの世界の人々に影響を与えた「100Women」に選ばれた(撮影/編集部・上栗崇)
伊藤詩織(いとう・しおり、左)/1989年生まれ。主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信。著書『Black Box』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞。2020年9月、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた/石川優実(いしかわ・ゆみ):1987年生まれ。2019年に、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとして#KuToo運動を展開し署名を厚生労働省に提出。同年英BBCの世界の人々に影響を与えた「100Women」に選ばれた(撮影/編集部・上栗崇)

 またか。どうせ辞めないんだろう。そんな空気は一変し、批判は一気に広がった。時代は変わったのか。女性差別にノーと言い続けてきたジャーナリストの伊藤詩織さんと俳優・アクティビストの石川優実さんが、AERA 2021年3月1日号で語り合った。

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 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森喜朗氏の女性蔑視発言。批判や抗議が広がり、森氏は会長を辞任した。辞任で何が変わり、何が変わらないのか。女性差別と闘ってきたジャーナリストの伊藤詩織さん、アクティビストの石川優実さんがリモートで対談した。

■海外の目が大きな力に

──発言をどう聞きましたか。

伊藤詩織:正直驚きませんでした。ひどい発言だけど、彼はこれまでもそういった発言をしてきたし、日本の政治家による女性軽視の発言は今までもあった。今回大きく違ったのは社会の反応の速さ。SNSでスピード感を持って発言へのリアクションが広まったことです。

石川優実:最初の感想は詩織さんと同じで、またか、もう聞き飽きた、と。当初は「どうせ辞めないだろう」「1週間後には忘れられているな」と諦めの気持ちもあったけど、署名活動も始まり、みんなが辞任まで声を上げ続けた。声を上げる、その先に進んだと感じました。

──「違い」の原因は何ですか。

伊藤:海外の目が入ったことが大きいと感じますね。発言を海外のメディアが批判的に報じ、各国の大使館がツイッターで抗議しました。こうした問題を扱うときに、国内だけではすごく難しいと感じていたので、海外からの批判と、批判へのサポートは大きかったと思います。

石川:日本では今まで声を上げる土壌がありませんでした。私自身も数年前まで声を上げるというアクションすら知らなかった。そんな中でも、詩織さんやフェミニストの先輩とか、自分を含めて頑張って声を上げた人たちがいて、それを見ていた人たちが「自分もやれるんだ」と知った。今回はそうした積み重ねが大きく出たのかなという感じはしています。

──お二人のように、声を上げてきた女性の存在が一連の流れに大きく影響しています。

伊藤:#MeTooのムーブメントの前に、私が最初に声を上げたときは驚きの目を向けられました。それが少し変わってきたと思うのは、「Silence(沈黙)=加担」なんだという認識も出てきたことです。私自身、さまざまなラベルを貼られる中で、海外のメディアで「サイレンスブレーカー」とつけてもらったのが、しっくりきてうれしかった。今回も、#DontBeSilentのハッシュタグが広がり、沈黙を破ることの大切さや、一緒に声を上げるという動きがポジティブなこととして広がった。ボーダーレスでつながるハッシュタグムーブメントの魅力でもありますね。

 自分も声を上げられると気付いていない人はまだ多い。でも自分のことは多分自分が一番知っている。何ができるのか、どんな可能性があるのかをもっと見つめてほしいですよね。

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