例えば、「尊厳を 遠くの親戚 邪魔をする」。高橋監督が実際の在宅医療の現場で「無駄な延命治療を望むのは近しい親族ではなく、突然出てきたような親戚がもっともらしく言うケースが多いと聞いて」作った。本多が震える手で最期に遺した「いちどだけ うわきしました ゆるせつま」には、きっぷのいい大工として生きたであろう本多自身の姿と、妻への愛がにじむ。

 本作を完成させて改めて、

「『こういう死に方でいいんだ』と確信が強まりました。僕にとってはもう一つ、安楽死の問題が残っているのですが、それはまだ自分の中で整理がついていない。次のテーマになるかもしれません」

 人は必ず死ぬ。死の選択肢を広げることは、生を輝かすことにもつながるに違いない。

◎「痛くない死に方」
2月20日から東京・シネスイッチ銀座、3月5日から大阪・なんばパークスシネマほか関西地方で順次公開

■もう1本おすすめDVD「エンディングノート」

 人は余命宣告を受けた時、どんな生き方ができるのか。

 本作の主人公は、熱血営業マンとして勤めた会社を67歳で退職してまもなく、ステージ4の胃がん宣告を受けた砂田知昭さん。娘の麻美さんが、「自分が撮りたくない時と父が撮られたくない時は撮らない」というルールを決めて、撮影者として冷静に父の最期の日々をカメラに収めた。

 手術もできない状態と知らされた知昭さんは「自らの死の段取り」を行い、家族のために「エンディングノート」と呼ばれる“マニュアル”づくりに取りかかる。

 その一つが葬儀だ。砂田家は仏教なのに、知昭さんが選んだのはカトリック教会でのキリスト教式。その理由は「最期に向かって信心深く過ごす」ためではなく、ずばり「リーズナブルだから」。家から近い場所、無駄なお金をかけないことなどの視点から、東京・四ツ谷の聖イグナチオ教会を選んだ。もちろん、葬儀のために洗礼を受けることも厭(いと)わない。

 ユーモアをちりばめた本作は「エンターテインメント・ドキュメンタリー」の言葉通り、泣いて笑って温かな余韻を残す。幸せな死に支度は、人生を輝かせる手段にもなる。

◎「エンディングノート」
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
価格3800円+税/DVD発売中

AERA 2021年2月22日号