「心残りは突然、亡くなったことで、大瀧さんからお話をうかがえなかったことです。細野さんには一度につき1時間半から2時間かけて、何十回か取材しましたが、一番楽しそうにお話しされていたのが大瀧さんとの思い出でした。話された時間も長くて。それくらい細野さんと大瀧さんの絆は強くて深かったんです。お二人の関係がこの本の柱になっていったのも、自然な流れでした」

 細野さんは門間さんに「音楽は単なる自己表現ではつまらない」と語った。音楽は自分を越え、時代を経て受け継がれていくべきだという考えがあるからだ。

 門間さんもこの本に対して「自分の著書というより、細野さんが生きた時代をそのまま伝えていく役割を担っている感覚で書いた」と話す。

「だから、読者の感想を聞いてみたいですし、『この本を若い人に読んでほしい』という感想をいただいたりすると、すごくうれしいんです」

(ライター・角田奈穂子)

■東京堂書店の竹田学さんオススメの一冊

『「逃げおくれた」伴走者 分断された社会で人とつながる』は、「いのち」の普遍的価値を確認することができる一冊。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 ホームレスなどの困窮者支援を長年続ける著者は、自身を「逃げおくれた伴走者」と語る。厳しい支援の現場から逃げる勇気がなく、困難のさなかにいる他者と出会ったことの責任を抱え、迷い悩みながら活動を続けてきたという。本書はウェブに発表した文章や牧師である著者の説教、コロナ状況下でのオンライン対談が収められている。

 著者は東日本大震災、相模原障害者殺傷事件やコロナ禍などに触れ、路上で出会った人びとの記憶も呼び起こしながら、「いのち」の普遍的価値を確認し、傷つけ合いながら他者とともに生きざるをえない人間の弱さを肯定する。自己責任論が隅々まで浸透し、無縁社会化した現代に抵抗し、そこからの脱却を希求する実践と言葉は、優しく、ユーモラスで力強い。まさに今、多くの人びとの魂に沁(ルビ:し)みる言葉が本書には詰まっている。

AERA 2021年2月22日号