■自分が暮らす世界は

西川:印象に残ったことはありましたか。

役所:三上が「善良な市民がリンチにあっていても見過ごすのがご立派な人生ですか」と言うシーンがありますよね。誰もが経験していることでも、三上は許せない。「生きにくいだろう」と言われても、彼は正しいと思えばどんな危険なことでもやってしまう。そこがすごく突き刺さる。みんなが三上のことを嫌えない理由の一つはその辺りなんでしょうね。

 社会のレールを踏み外した人間に容赦のない厳しい現実が立ちはだかる。だが、決してそれだけではない。タイトルを改めて噛み締めたくなる。

西川:自分でもなぜこのタイトルに行き着いたのかよく覚えていないんです。物語を書いていくうちに、汚いものも苦しいことも永久不滅なのが人生であり、世界だと感じました。しかし一方で、人間の優しさも、光や美しいものも絶対になくならない。漠然としたタイトルですが、これしかないのかなと思いました。

役所:映画が終わってこのタイトルが出た時に、お客様はたぶん、「自分たちが暮らす世界はすばらしき世界だろうか?」って思うと思います。今、ニュースで殺人事件を聞かない日はないし、子どもの虐待事件も頻繁にある。大人が子どもを守って、成長した子どもたちは年老いた大人を守る。そんなことができればすばらしいけれど、現実はそうもいかない。矛盾をはらんだこの世界をどう生きるかは、僕は人間に与えられたテーマなんだろうなと思います。

西川:あの「役所広司さん」とお仕事したなんて1年前が信じられない! いままた緊張しています(笑)。これからも、役所さんに「また新しい作品を書いてもらったな」と思っていただけるよう頑張っていきたいです。

役所:僕は女性監督は初めてでした。カメラの横でずっと見ていられると、何となく照れ臭かったんですよ(笑)。いつでもまっさらのスケジュールでお待ちしています。

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年2月22日号