安田菜津紀(やすだ・なつき、33)/1987年生まれ。NPO法人Dialogue for People副代表。著書に『写真で伝える仕事─世界の子どもたちと向き合って』など (c)朝日新聞社
安田菜津紀(やすだ・なつき、33)/1987年生まれ。NPO法人Dialogue for People副代表。著書に『写真で伝える仕事─世界の子どもたちと向き合って』など (c)朝日新聞社

 日本の社会構造を晒すことになった森喜朗氏の女性蔑視発言。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんはどう見るのか。AERA 2021年2月22日号で語った。

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 森さんは過去にも「子どもをつくらない女性を税金で面倒をみるのはおかしい」などと女性蔑視の発言を繰り返してきましたが、これまで上がった批判の声から何も学んでいないことが浮き彫りになりました。学ぶつもりのない人が権力を握り続けていることも深刻な問題です。

「役立つ」「わきまえている」といった言葉の節々には、自分は権力構造の上にいて、自分にとって都合のいい女性とそうではない女性を恣意的に選別できるんだという、ある種の特権意識もうかがえます。

 森さんは辞任すべきだとずっと思っていました。あってはならない発言をしても辞任しない、形だけの中身のない「謝罪」会見で許されてしまう、となれば、国内外、特に次世代へ誤ったメッセージになるからです。けれども政府・与党からはほとんど辞任を求める声は上がらず、二階さん(自民党幹事長)は「撤回したからいい」と擁護していました。差別発言を下支えするこうした社会構造にも切り込んでいく必要があると思います。

 私自身も圧倒的に男性が多い写真の世界にいて、「男勝り」を誉め言葉と思い、セクハラ発言を受け流すことが「正解」だと思ってきた時期もありました。今思うと、指摘をしないことで問題解決を先送りしてしまっていた。その後悔が、今回声を上げている根底にあります。

 一方で、性暴力やハラスメントの被害を受けた方などの中には、感じていることはたくさんあるけれど声を上げられない人もいると思います。どうか、自分を責めないでください。多くの方々が上げている声で「ひとりじゃないんだ」と思ってもらえたらいいなと思っています。

 本来、会議はいろいろな意見が出ることで議論が深まっていきますが、森さんが考えてきた「会議」はイエスマンばかりをそろえ、形だけ議題を通す非民主的な場だったようです。波風立てず、わきまえることに価値が置かれてきたのは実は男性側だと感じます。そう考えると、森さんの発言は、男性もバカにしているのではないでしょうか。

 日本の中では和を乱さないことに重きが置かれ、意見することがタブー視されがちなところがありますが、社会を今より良くするためには批判や異論も必要だという共通認識を広げていくことも大切だと思います。

(構成/編集部・深澤友紀)

AERA 2021年2月22日号