編集部が基本コンセプトに据えたのは、「地球の歩き方らしさを崩さない」ことと、「最新スポットにこだわらない」の2点だった。

 目まぐるしく変わる東京のトレンドや最新スポットの紹介で勝負しても他メディアには勝てない。それならば、と選んだ切り口の一つが「江戸から地続きの東京」だ。江戸切子や江戸藍染めといった伝統工芸体験のほか、文豪が通った老舗の名店の味やパワースポットの紹介など、江戸・東京の歴史や文化を網羅的に学べる構成になっている。斉藤さんは言う。

「インターネットだと自分が調べようと思った検索ワードの範囲の情報にしかアプローチできませんが、自分の興味の範囲外だった思わぬ情報に出合えるのが本書の醍醐味です。ディープな情報は教養の蓄えにもなると思います」

 例えば、「歴史と文化」の章では歌舞伎や能楽、大相撲などの観覧の楽しみ方を初心者向けに解説。コラム欄には「江戸文字」に関する豆知識も。

 取材は海外版で執筆経験のある20~50代の首都圏在住のライター7人が担当した。

「東京に詳しいエキスパートが集まったというよりは、地球の歩き方のエキスパートが集まって構成したという感じです」(斉藤さん)

 エリアごとに街の情景を丹念に描写し、一緒に街歩きをしているような気分を味わえる筆致や、地名の由来や街の成り立ちを詳しく紹介するのも、『地球の歩き方』シリーズならではの特色だ。

■事業譲渡後も「増刷」

 ファンをくすぐるのが、シリーズ恒例の「旅の準備と技術」の章。東京の治安情報や習慣とマナーまで、海外の人向けと思われるほど念入りに記されている。例えば、満員電車やエスカレーターに乗るときの注意点。エスカレーターに乗る際は「ステップの左側に立ち、右側は歩く人のために空ける」という暗黙のルールが定着しているが、近年では立ち止まって乗るよう推奨されている、と丁寧な説明ぶりだ。斉藤さんはこう言う。

「緊急事態宣言が延長され、旅行はおろか外食さえ自由に楽しめない時期ですが、重くて分厚い本を家の中でじっくり読み込むには最適とも言えるのでは。本書にはそれに見合うたっぷりの情報量が盛り込まれています。読みながら旅気分を味わったり、状況が落ち着いたら訪ねたいところをリサーチしたりするのに活用してもらいたい」

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