「五輪が延期されたのに加え、発刊時は『GoToトラベルキャンペーン』が展開中でしたが東京は除外。東京に旅行するなんてとんでもないというムードの中、最悪の船出といってよい状況でした」(斉藤さん)

 逆風と暗雲が立ち込める中、半ば開き直る思いで刊行したのが実情だという。

「編集部としては取材しちゃったし、つくっちゃったから40周年の記念としてとにかく発刊しようと。そうしたら意外にも東京の人が多く買ってくれたんです」(同)

 リアル書店で最も売れているのが東京駅近くの「丸善」丸の内本店だ。和書担当の書店員、宗形康紀さん(36)は「ガイドブックの中では異例中の異例の売り上げ」と太鼓判を押す。

■ステイホームも後押し

 発売後3カ月間だけで、同店で最も売れたガイドブックの年間売り上げの約3倍を記録した。昨年12月に同店がオンラインイベントを主催した際の参加者も、都内と近隣県在住者で8割を占めたという。ヒットの要因について宗形さんはこう分析する。

「地球の歩き方が吟味した情報に対する信頼性は多くの人が共有しているはずです。でも、きっと中身は面白いんだろうなとは思っても購入に踏み切るにはハードルがあります。そのハードルを越えるのにコロナ禍で遠出を控えたり、家にいる時間が長かったりする状況が後押しした面は大きかったと思います」

 一方、前出の斉藤さんは「身近だけど知らなかった情報に触れたいと考える人たちに刺さったのかな。コロナ禍だからというのではなく、以前からそういうニーズがあったのかもしれません」と見る。

 灯台下暗し、なのか。海外はもちろん、国内旅行も控えざるを得ないコロナ禍も相まって、首都圏で暮らす人たちが足元の再発見を期待して買い求めているのが実態のようだ。

■江戸から地続きの東京

 とはいえ、東京に関する情報はメディアにあふれている。しかも多くは、スマホなどで手軽に仕入れることができる。そんな中、2020円の分厚いガイド本がヒットしている理由は、その内容抜きには語れない。

次のページ