本書は「第I部 パーマネント報国と木炭パーマ」「第II部 モンペと女性ファッション」で構成されている。戦時中にもはやり続けたパーマに対する社会からのバッシングをはねかえすべく、共闘する客と美容院。そして「モンペをはくのか、はかないのか」と紛糾する当時の様子を、飯田さんは豊富な資料や写真から読み解いていく。

 最終章「人々が守ったものは何だったのか」では、戦時下においても「好きなように装いたい」と強く願い、美容や洋裁を学んだ女性や、婦人会を説得してパーマを守った男性の姿が描かれる。今まで語られなかった人々の姿だ。

「これまで女性研究の対象はミドルクラスの女性に偏りすぎていたと思います。私の祖母も働いていたのですが、名もない庶民の女性たちがどのように生きたのか、ある枠組みをあてはめてしまうのではなく、そこに生きた一人ひとりの声に耳を傾けていきたい。たとえ戦時下であっても、人々はそれぞれに生きていました。これからも社会や歴史を重層的にみていきたいと思います」

(ライター・矢内裕子)

■HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香さんオススメの一冊

『アヒル命名会議』は、希代のアーティスト「イ・ラン」による初の小説集。HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE 新井見枝香さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 テレビドラマの中でマスクをしていたり、小説の中で学校が休校になったりしている。ソウルに住む著者の小説集も例外ではなく、のっけからウイルスが猛威を振るい、家から出ることができない状況に陥っていた。しかしそれはコロナではなく、ゾンビになる食人ウイルスだった。

 イ・ランは歌をうたいマンガを描いて文章を綴る、全くひと言では説明できないアーティストだ。短編「いち、にの、さん」では、日本人の恋人と暮らす韓国人女性が、ゾンビだらけの外の世界へと出ていこうとする。その思考回路には、既存のカテゴリーに当てはまらない自由さと率直さがあった。

 映画のエキストラが“手違い”でブレークしてしまう「手違いゾンビ」も、エンタメかと油断すると、純真な子どもみたいなやり方で、読者を絶句させる。

AERA 2021年2月15日号