「一バッターとすれば、ハイレベルなピッチャーと対戦したい気持ちもあるはずです。田中は低めのストライクボールの見極めが非常に難しいピッチャー。そこを柳田やオリックスの吉田正尚など、打率が高く長打も打てるバッターがどう攻略するかは見どころですね」

■「24勝0敗」再現なるか

 では、田中選手は今年、何勝できるのだろうか。ファンの中にはあの楽天最後のシーズンでの「24勝0敗」のイメージが残る。田中選手は入団会見で、「そこをまた飛び越えてやろうというところも自分の中でのやりがいの一つ」と話したが、田尾さんはどう見るか。

「いや、さすがに負けがゼロで24勝は、運がからまないと無理な数字です。どんないいピッチャーでも、1点に抑えても味方がゼロなら負けますから」

 ただ、田中選手が驚異的なのはトータルで見ると「3勝1敗ペースのピッチャー」であることだと田尾さんは指摘する。

「たとえば元巨人の斎藤雅樹投手は、2勝1敗ペースくらいで勝てていた。それでも僕らはすごいなと思ってたけど、田中はそれを超えるペースで勝てる。そんなピッチャー、他には見当たりません」

 田中選手が今シーズン、28試合程度投げるとして、勝ち負けがつく試合で「18勝6敗」くらいはいくのでは。これがズバリ、田尾さんの予想だ。

「六つくらい負けるのは、皆さん大目にみてあげましょう(笑)。貯金を10個するだけでも、すごいピッチャーなんですから」

 田尾さんはそんな田中選手の活躍期間について「現実的には、1年限定でしょう」と見る。

「そもそも『より高いレベルでやりたい』とメジャーに行ったのだし、コロナの状況次第で来年のメジャーリーグが安定して試合を開催できるなら、やはりまたメジャーでやりたい気持ちが強いと思う。でも、まだ32歳というバリバリの年齢の田中が1年でも日本で見られる。それをラッキーと思った方がいいんじゃないですか」

 7年前、被災地に力を与えてくれたマー君。今度は東北だけでなくコロナで沈滞する日本中を勇気づけてくれるに違いない。もう、ワクワクが抑えられない!(編集部・小長光哲郎)

AERA 2021年2月15日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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