優勝パレードで手を振る田中投手。復帰にあたり「今まで以上に近くにいることで、また僕にできることがたくさんあるかもしれない」と被災地への思いを語った/13年11月、仙台市青葉区 (c)朝日新聞社
優勝パレードで手を振る田中投手。復帰にあたり「今まで以上に近くにいることで、また僕にできることがたくさんあるかもしれない」と被災地への思いを語った/13年11月、仙台市青葉区 (c)朝日新聞社

 大リーグ・ヤンキースから8年ぶりに帰ってくる田中将大投手に、野球ファンが沸いている。震災から10年という節目での日本球界復帰は、被災地にとっても大きな意味を持つものになりそうだ。一方で、ファンが気になるのは日本で果たして何勝を挙げるのかということ。AERA 2021年2月15日号で、野球解説者らに取材した。

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 震災10年での復帰に期待をかけるのは、広島カープの熱狂的なファンで知られる精神科医の和田秀樹さん(60)だ。和田さんは、1995年の阪神・淡路大震災の後に起きた地下鉄サリン事件で、東京のマスコミが被災地を取り上げなくなったのと同じことが、いままた起きていると指摘する。

「いま、私は福島の原発の廃炉作業に携わる作業員の方たちのメンタルケアにも携わっていますが、コロナの話題一色で東日本大震災がどんどん風化していることを感じる。会見で震災10年に触れた田中選手の中に、『3.11を風化させない』という強い思いがあるのであれば、素晴らしいと思います」

 もちろん和田さんはプレーにも期待している。田中選手は、楽天とは「2年契約ですが1年終わった段階で球団とお話しする機会を設けてもらっている」と明かした。せっかくなら2年、いやずっと日本で見たい、というのがファンの偽らざる思いだろう。しかし、和田さんは「むしろ1年限定の楽しみ方を期待したい」という。

「田中選手は来年のメジャーを見据えて、日本で思いっ切り勝てるだけ勝って『やはりおれのこと、メジャーも欲しいでしょ』と見せつける。そんなパフォーマンスをしてくれる可能性が、1年限定だからこそありうると思います」(和田さん)

 しかし、迎え撃つ日本球界のバッターたちもタレント揃いだ。昨季のパ・リーグ最優秀選手、ソフトバンクの柳田悠岐外野手は、田中選手の復帰について「(対戦が)楽しみとかじゃない。嫌ですね、嫌です」と話したというが、これって本音なのか。

 楽天の初代監督で、現在は野球解説者の田尾安志さん(67)は、「本音の部分もあると思うが」としてこう話す。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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