対中強硬派の米海軍関係者たちの間では、キャンベル氏が対中戦略の指揮を執ることになり、「北京では祝杯をあげて老酒(ラオチュウ)が売り切れてしまったに違いない」と冗談が飛び交っている。

「取り込み政策」への回帰で大きな影響を受けるのは、南シナ海情勢と東シナ海情勢だ。

 トランプ政権下でも中国による南シナ海での支配権の拡張政策は大幅に萎縮(いしゅく)することはなかったものの、オバマ政権の時のような勢いは僅(わず)かながらも失われていた。バイデン政権による対中「取り込み政策」が始まると、オバマ政権期のような勢いで中国による南シナ海の軍事的支配が飛躍的に強化されることは自明の理だ。

■国際社会の連携で抑制

 バイデン政権は同盟国をはじめとする国際社会の牽制(けんせい)網によって、中国による軍事的支配を抑制する方針を打ち出すと見られる。これは「取り込み政策」そのもので、中国が南シナ海の軍事的優勢を手中に収めるのはほぼ約束されたようなものだ。

 実際、バイデン政権発足に先立ち、中国はすでに東南アジア諸国にワクチン外交を展開。米国の同盟国であるフィリピンの取り込み工作も進展し、南シナ海での覇権掌握の準備は着々と進んでいる状況だ。

 尖閣諸島の領有権をめぐる日中対立でも、中国は、米新政権発足と共に海警局に武器使用の権限まで与えており、中国に有利に働くことになる。バイデン政権が提供できる対日支援策は「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内である」として日本政府を安心させることだけで、それ以上の軍事的支援は何もできないのが現実だからだ。(軍事社会学者・北村淳(米国在住))

AERA 2021年2月15日号