新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まっておよそ1年が経ち、予防のためのワクチン接種に注目が集まる。そんなワクチンの歴史を振り返り、史上初のワクチンがどのように開発され、日本にはどのようにして入ってきたのか。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」2月号の記事を紹介する。

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 ワクチンとは、毒性を弱めて安全な形にした病原体(ウイルスや細菌等)のことだ。最近は病原体の遺伝物質を合成して作るワクチンもある。これを注射することで、人体にその病原体への免疫ができ、感染を防げる。たとえ感染しても、軽い症状ですむようになる。新型コロナには今のところ特効薬はないが、ワクチンが開発されて、大多数の人が接種を受ければ、ウイルスは感染先を見つけられなくなり、流行は収まっていく。だから、収束のカギとしてワクチンに大きな期待が寄せられているのだ。

 私たち人類を苦しめてきた感染症の中で、最初にワクチン開発に成功したのが「天然痘」だ。ウイルスの感染によって発症する天然痘は、2千年以上前から世界各地で流行を繰り返してきた。死に至ることも多く、治っても顔や手足に発疹(ぶつぶつ)のあとのあばたが残る。日本でも古くは奈良時代の735~37年に大流行して、当時の日本の総人口の25~35%にあたる100万~150万人が死んだとされている。

●病気の牛の膿を使う「牛痘種痘法」をイギリスのジェンナーが開発!

 18世紀の終わりごろまで、ヨーロッパでは天然痘を予防するために人痘種痘というトルコから伝わった方法が用いられていた。これは、天然痘患者の発疹からとった膿を、皮膚につけた傷から体内に入れ(接種し)、軽い天然痘にかからせて免疫をつけようとするものだった。しかし、ウイルスを含む膿をそのまま体内に入れるこの方法はリスクが大きく、重い症状が出て死ぬこともあったので、あまり広まらなかった。

 一方、当時のイギリスでは、牛から感染し発疹ができる牛痘という病気にかかった人は、その後天然痘にはかからないといわれていた。牛痘は症状も軽く、死ぬこともない。医師のジェンナーは、これらのことを確かめ、牛痘にかかることで天然痘に対する免疫ができると考えた。そこで、1796年5月、牛痘にかかった女性の発疹から膿をとって、天然痘に感染したことのない少年の腕に接種した。その約7週間後、今度は同じ少年に天然痘患者からとった膿を接種したが、少年は天然痘を発症しなかった。牛痘の接種により、少年に天然痘に対する免疫ができたらしい。

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上浪春海
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