「受講者の中には、アンケートに回答するだけでなく、その選択肢を選んだ理由をチャットに書き込んでくださる方もいて、相当深く考えているなと。これぞ集合知だと感じました」(児玉准教授)  対面の教室では、受講者同士の「私語」は授業の邪魔でしかない。だが、オンラインのチャットでは、受講者同士が互いのコメント内容を補い合ったり、コメントから新たな議論が始まるなど、「私語」が議論を活性化させる場面も多々見られた。

 前出の松原さんが「腑に落ちた」と感じたのは、内田由紀子・こころの未来研究センター教授の「文化心理学」の講義だ。コロナに対する日米の政策や人々の行動の違いが、「幸福観」の文化差という視点から分析された。

「コロナは台風などの自然災害と違い、コミュニティー内での感染がリスク。だからこそコミュニティーの文化やそこで生きる人々の心理から考えるアプローチに納得感がありました。普段は主観的に見ている現実を、客観的に捉え直すための新たな視点を得られました」(松原さん)  出口教授は「自己とは何か」という哲学の講義で「われわれとしての自己」という新しい概念を提示した。

「コロナ禍では一人一人がマスクをするか、行動変容するかというミクロの行動が、マクロの感染状況に直結する。『私』と『われわれ』はダイレクトに繋がっていて、『私』について考えることは『われわれ』について考えることでもある。両者を切り離して考えることはもはやできなくなっている」(出口教授)

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新しい教養の可能性